動物達は僕の味方
□03.対等な立場
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マンションの部屋は解約した
食器や家電は売り払い、着替えは大きめのリュックにつめこんだ
あの日、部屋へ帰って来てから手紙の内容を読んだ
書いてある事はただの待ち合わせ、しかし氷月にとっては「死の場所」を意味した
会社も辞めた、すぐに同僚や上司から連絡が来た
「何処が悪かったのか」「何がいけなかったのか」と聞かれたが、「過去の上司で嫌気が差してた」と一方的に電話を切り、仕事用の電話を解約した
お金はそこそこあるが、今からはあまり必要ではない
そのため通帳と判子は「まああればいいんじゃない?」と2重のジップロックに入れ、普段は使用しない小さなファスナーの奥へおいやった
リュックの中には必要最低限の着替え、財布、通帳、判子が入っており
水色の髪を三つ編みに、白いロングコート、白いブーツ、白いマフラー、白い手袋と全身を白一色に染め
正月から仕事詰めだったため去年より2キロも痩せたヒョロヒョロの身体で1月25日の夕方に待ち合わせ場所へ向かった
着いた頃には日は半分ほど沈んでおり、綺麗な白銀の森林に赤い夕陽が幻想的な空間を生み出していた
正門についてしゃがみ込む、もし朝に来ていれば申し訳ないとリュックを抱きしめて座った
考えるのは悔いのない死、もうすぐで潰える命だが最後に何がしたいのか考えた
しかし考えついたのは、あの手紙を貰ってからの未来で、彼ならば最大限に叶えてくれると信じてた
プライベート用のスマホからイヤホンで流れる曲を聞いて、目の前の大森林を見つめていれば
ディスプレイに映し出された「20時30分」、正門から彼が出て来た
五条「あれ?その服装で来たんだ」
手を差出ながらさりげなく言った一言に、期待と興奮が入り混じっているのはわざとだろうかと疑問符を浮かべた
『君が今から殺すのは「狐面の呪詛師」だからね。「非術師」の僕を殺したら君が「呪詛師」になってしまうよ』
差し出された手を掴み立ち上がる、白いコートについた砂埃を叩き落とし、リュックサックを背負う
五条「術師になる?」
意地の悪い笑みと共に吐き出された言葉に
『なるわけないじゃん。僕はビビりだから』
と氷月も笑みを浮かべて言った
五条に案内されるまま先程まで見ていた森林の中を歩く
振り返ると校門は遠くなっており、目の前に葉先が白くなった針葉樹林が前後左右に広がっていた
「黒いサングラスでよく視えるな」と他人事のように思っては、小さい池の開けた場所にやって来た
五条「君を今すぐ殺すのは簡単だけど、僕の遊びに幾つか付き合って欲しいんだ」
『構わないよ。どうせ最後なんだからね』
振り返った五条は氷月の表情を見る
今すぐにでもその手を掴みたいほど、死を恐れぬ姿勢と儚い笑みが、今の彼を数倍にも魅力的にさせる
岩に腰かけた氷月はその横に大きなリュックを置いた
五条「僕からの遊びは3つ。1つ目は君についての情報が欲しい事、2つ目は呪術を使って遊びたいんだ」
『いいよ。3つ目は?』
五条「内緒」
『はいはい』
七海との食事会の後、互いに連絡先を交換しては会社の屋上に現れる互いに毎回笑みを零した
時々いない日が続くと「出張」、時々来ない日があると「近場の呪霊を祓って来た」と遅れた時間にやって来る
そんな関係が心地良かったし、それだけで「友達がいる気分」にもなった
五条「じゃあまずは1つ目からね」
「どうして呪霊と戦うのか?」
氷月はただ一言だけ「真面目に八つ当たり」と答えた
会社で嫌な事があっても愚痴を零せる友人もいなければ、ストレスの発散場所がなかったから
会社の近くで呪霊が発見されたと聞いて、呪霊を祓う次いでの本当にストレスの発散が目的さ
本当の事を言った
「なんで地元から離れたの?」
その問いに考え「嫌いだから」と答えた
小さい頃から視えてたのにそれを周りの子には不気味な子と言われて寂しかった
祖父母が呪術に詳しい人で学校の同級生の周りを散策しているかのように近づいてくる呪霊を祓っても気づいて貰えないのがすっごく寂しかった
それに不気味だからと言って虐めも受けていたから、地元なんてどうでも良かったし、嫌いだから逃げて来た
まあ東京に来たのは本当に気まぐれ、祖父母が新しい生活を築けた土地であると聞いたから来た
実際、人間がクソなのはどこも変わらなかったけどね
本当の事を言った
「どうして呪術界から消えたのか」
その問いは「嫌になったから」と答えた
小学4年生の時、多くの人の命を奪った
夜な夜な夢で魘されるし、消えていく命を見ていると「自分もいつかこうなる」「真面な死は巡り合わないだろう」と自分の中で確信した
呪詛師殺しも大切な仕事なのは分かっていたけど、どうしてもそれが嫌になった
中学1年で呪詛師殺しも辞め、呪術師も辞めたのは祖父母が他界したから、辞めるなら今かもと思って辞めた
「なぜ非術師になったのか」
その問いは「経験したかったから」と答えた
中学の時に1年間非術師を経験した
勿論呪霊の事は視えていたけど、さほど怖くなかったし黙っていれば一般人になれると理解
そこから非術師の友達が増えていって本当に嬉しかった
呪霊を初めて倒した時よりも、呪詛師を多く捕らえた時よりも、何よりも嬉しかったし一日が楽しかったからさ