動物達は僕の味方

□05.狐面の術師
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あの日からまた2ヶ月が経ち、秋に入っても残暑が多く残る日であった

久しぶりに都内での仕事を幾つかこなして帰る、マンションのエントランスで補助監督を見送ってから五条の携帯にメールが届いた

部屋に戻ってから晩御飯の準備を氷月がしている最中にメールの確認をしていると

五条は急に大きなため息を吐き出した

彼はすぐに話し出す、自分の都合の悪い事以外は

そして「話し出さない」と言う事は、五条にとって都合の悪い事なのだろう

氷月はそこに触れない

触れたとして自分に何が出来るのか分かった物じゃないから

だからこそ五条の判断で自分から話すのを待つ

夕食を食べ終わり、珍しく先に五条が風呂に入る

その間に使った食器、道具、調味料を戻し

食後のデザートと飲み物の用意をする

デザートはプリン、飲み物はハーブティー

五条の落ち着きがないから選んだ2品である

五条「ありがと」

風呂から出て来た五条はすぐさまデーブル席に座りゆっくりと食べ始める

その間に氷月が風呂に入る

湯船にしっかりと浸かり、頭を洗ってから身体を洗う

最後に湯を抜いて風呂の掃除を同時にこなして出ると、テレビも点けずにソファに静かに座っていた

此処まで五条が大人しいのは初めて見た氷月

話しかけた方がいいのか、それとも今まで通りに機嫌が直るまで放置すればいいのか

飲み干されたカップと綺麗に食べられた皿を台所に置き、明日の朝に洗う事に決め

氷月は五条の横を静かに通り過ぎて自室に戻る、はずだった

『五条?』

五条「......」

横を通った時に五条は勢いよく立ち上がり、その腕に指がめり込むのではないかと思うくらいに強く掴んだ

振り返る表情を見るも、前髪のせいで「眼」が見えない

だが何かに対して「苛立ち」「憎み」「悲しん」でいるのは分かった

『どうしたの?』

此処で初めて氷月から聞く事にする

相手が無言で止めに入ったと言う事は「聞いてほしい」事なのだろうと思ったからだ

五条「...っ」

五条の身体が細かく震える、何かに我慢して「泣きたい」んだと理解し

氷月は自分からまた初めて五条を抱きしめた

大きな背中に腕を回し、ゆっくりと優しく抱きしめる

『「悟」、僕は此処にいるよ』

いつか言われた自分の安心する言葉

悪夢で魘された時、五条がしてくれた安心を氷月は今返す

五条はしがみつくように氷月の背中に腕を回し、持てる力を使って服を強く掴んで嗚咽を零しながら崩れ落ち

氷月も五条と共に崩れ床に座り込む形となり、中に回していた右腕を持ち上げ柔らかな白い髪を撫でる

そして悟った、分かった、理解した

『ありがとう悟。僕のために「泣いて」くれて』

優しいその言葉を聞き、五条は氷月の左肩を静かに濡らした

いくらか落ち着いた所で五条を抱き上げる

五条「!?」

自分の身体の大きさと重さを知っているのかと問いただしたくなるくらいにヒョイッと抱き上げた氷月はそのまま五条の寝室へと向かう

足で器用にドアノブを下げ、ベットに優しく下すと「ちょっと待ってて」と寝室に1人残して消えていく

羞恥で顔を真っ赤にする五条はベットの上で珍しく慌てる

「え?俺よりも小さくて可憐な氷月が抱き上げた?」と頭と心の中で慌てていると電子レンジの音がした

そこから数十秒待つとお盆に乗ったカップがやって来る

『ホットミルク。砂糖多めに入れたから飲んで。落ち着くよ』

五条「ん」

五条にとってあまり甘くないけど、今はちょうど良かった

飲み干すとすぐさま台所にコップを置きに行きリビングや台所の電気を消してから、再び五条の寝室へとやって来て電気を消した

『一緒に寝よっか』

五条「うん」

先程までの思いつめた表情は少し和らいでおり、言葉通りに2人して布団の中に入る

氷月は五条の頭を抱え込んで自身の胸の中心に持っていくと、五条もすがるようにして抱きしめる

五条「次の任務。北海道なんだ」

急に語られた次の任務先に氷月の身体が一瞬だけ強張った

逃げ出してきた地元、何も思い出がない地元、痛みを覚えた地元

そして告げられる、残酷な一手

五条「場所は○○市の××町」

『...そう、なんだ』

そこはまさしく氷月が生まれ育った町であり、弟を無残にも無くした場所

五条「多分だけど、弟君を殺した呪霊が1級になって「生得領域」を展開した。そこの処理」

『...分かった』

五条が思いつめていたのは「この任務で確実に氷月の何かが壊れる」と思っているからだ

だから「行かせたくない」「連れて行きたくない」けど、氷月自身が強く願った任務だ

『僕が変わったら、君はどうするんだっけ?』

五条「殺すよ。確実に殺す」

『そっか。ありがとう』

五条は「壊れた氷月」を見たくない

壊れてしまった場合は自分の手で治すと言ったが、一度壊れた物が何処まで治るのか分からないし

五条はただでさえ特級術師であるからこそ、1人の人間に構っている暇も余裕もない

だからこそ2人で出した、答え

「壊れたら治らない。だから殺す」
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