動物達は僕の味方

□08.忘れていたモノ
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2月14日

午前中に終わった任務に溜息を吐き出しながら公衆電話へと近づく

五条は出張で本日中に帰って来ず、夏油は日帰りの遠出

周りの気配を探り「高専」関係者が居ない事を確認してから、公衆電話へと入り小銭を入れて「あの日」に忘れたと思っていた番号へと自然な流れで電話を掛ける

プルルル...と呼び出し音が3回鳴った後、プツと鳴った

?「もしもし?」

『...白川、です』

佐嘉「ああ、待ってたよ。もしかして任務だった?」

『はい。午後と言うアバウトな指示のおかげでワザとタイミングをずらせませんでした』

佐嘉「それは残念だったね」

クスクスと笑う声が聞こえると氷月はこの前の飲み会の事を思い出す

楽しかった飲み会、温かい人、安心出来る場所

そんなモノが出来たのにも関わらず、今氷月が佐嘉に電話を掛けている理由は1つだ

佐嘉「さてこれから暇かな?良かったらおやつにしないかい?」

『...おやつは結構ですが、お話なら』

佐嘉「そう。じゃあ今から××と書かれたお店においで。僕を疑わなかったらね」

ツーツー、と切れた事を確認し、氷月は指定された店へと行くために「GPS」を外した

指定された喫茶店は駅内の意外と人通りが少ない静かな場所

カランとベルの音が鳴ると、私服に身を包んだ佐嘉が一番奥の席に座っていた

佐嘉「ああ、こっちだよ」

そう言って手を振るので仕方なしに上のコートだけを脱いで中へと入り、席に座った

佐嘉「仕事服、カッコいいね」

『僕が選んだわけじゃないですけど』

佐嘉「でも僕は「白」の方が見慣れているから、そっちの方が殺気立って怖いよ」

『だから言ってるじゃないですか、僕が選んだわけじゃないって』

店内から出て来た女性店員に「ブレンド」と頼む、マフラーを取り手袋をガサツにズボンのポケットへ入れ、お手拭きで手を拭く

佐嘉「君はいつまでも変わらないね」

『...逆にそんなポンポンと変わってたら持たないですよ』

佐嘉「さて本題に行こうか」

氷月が聞かされたのはこの世界の事

「何故人間が呪霊に殺されるのか」から始まった

非術師や呪力をコントロール出来ない未熟者が「負の感情」を抱いており、それが呪霊を生み出す「糧」となっている事

では「人間が呪霊に殺されないように」するためには何が得策か

『......「負の感情」を抱かないようにするには不可能がある。それは誰かが何かで「幸福」を手に入れた時、少なからずその人物に対して「嫌悪」を抱いている者がいる。その時に「負の感情」が発生し、呪霊が誕生する』

佐嘉「そうだね。じゃあ他の方法は何があると思う?」

『...他?』

佐嘉「僕はね「非術師を皆殺し」にすればいいと思う」

およそ小さな喫茶店でするような会話じゃない

何処でもそうだが、そんな話をゆっくりしたい時間と場所なんかで聞きたくないだろう

『それでは「支配者」に恐れをなして呪霊が発生するのでは?』

佐嘉「そこは「術師」が自分で対処する。そうすれば君たちが態々遠方まで行って「呪霊討伐」を行う事はないだろ?」

『それまでに流れた血の量は気にしないのですか?』

佐嘉「「血」が流れなくともいいのであれば、君の「術式」が役に立つだろ?」

『あなたは僕に「殺人鬼」になれと言うのですか?』

佐嘉「まあ遠回しでね」

『遠慮します』

遅れてやって来たブレンドコーヒーをブラックのまま飲む「大人になったね」と微笑みながら言う佐嘉は成長した者を楽しんでい見ていた

佐嘉「でも悪い話じゃないよ。今の君にとってはあまり良くないかもしれないけど、もう「あの日」を味わう子が減るかもしれないんだよ」

『!』

ピクッと動く眉を見逃さずに話を進める

佐嘉「過去の君のような扱いを受けている子は全国にかなりいる。1つの都道府県で10人程度かな?もし君が「未来を守るため」と考えているのであれば、僕の考えは分かると思うよ」

多くの「未来を残す」ために「今を殺す」のは得策なのだろうか?

自分の中に放り込まれた疑問を拭い切れず、その耳はどうしても佐嘉の話を聞いてしまう

佐嘉「君のお友達を守りたいと思うなら、早急にした方がいいんじゃないかな?いずれ「最強」も負ける時が来る。年齢による衰え、経験による慢心、予測不可能な妨害、これらに人間が急な対処を取る事は難しい。さらにそこへ「非術師」が来たとする。何も知らない一般人、ヘラヘラと来て、守れなかった。その時、君だったらどうなる?」

『自らの実力不足に落胆する。情けない自分はそこまでだったと諦める』

佐嘉「精神的なダメージはどんな状況にでも蓄積していくそれが「トラウマ」。君は大切な友人が「トラウマ」を抱えて「フラッシュバック」により動けなくなり、惨たらしい死に向き合えるかい?」

その言葉は、聞いても納得してはいけない

けど氷月は過去の事を知っているこの男の言葉を無視出来ないでいた

同じような過去は、同じ人間に必要ない

苦しい思いをするのは1人で十分であり、複数人に共有していいものではない

かつて氷月が恩師に言った自分の将来の夢「自分のような過去が出来ないようにしたい」

それが実現出来るのであれば、今の自分自身に何が出来るのか不安になった

そしてその夢を叶える1歩がそこにあるかもしれない

佐嘉「良い場所に連れて行ってあげるよ。おいで」

差し出された手を、氷月は戸惑う事無く握った
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