呪詛師と呪術師の狭間

□08.夏油傑の過去
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夏油「え?硝子が?」

夏油は今、教室で午前の授業を終えてこの教室から撤退を図っている所だった

しかしながら1年生の虎杖悠二が「白川先生ってどんな人ですか?」と質問が始まり

釘崎野薔薇から「家入先生から夏油先生や五条先生に聞けって言われた」と言われ

伏黒恵も興味なさそうな顔をしながら席から立つ事もなくそこに居座っていた

夏油「また急だね。どうかしたの?」

一般教養の教員用教科書を台に置き直すと夏油は皆を見るように立つ

虎杖「俺は興味があるから!最強の五条先生と最強の夏油先生と家入先生からメッチャ信頼されているのに、どうして他の人達は邪険に扱っているのかな?って。そりゃー、色んな人から「裏切り者」とか「呪詛師」って言われてるって聞くし、実際自分でもそうやって自己紹介してたけど、なんでそんなレッテルとか張られても先生達が信用しているのか気になったから!」

釘崎「私も興味あるわ。京都校との練習で呪力のない状態でもあんだけ強い気になったし、教え方とかも上手で、普通に尊敬するべき人だと思う。だからこそ、そんな先生がどうして「嫌われ者」を演じないといけないの、気になった」

伏黒「...俺は、あの人が知りたい。それだけです」

2年の子も変わっているけど、1年生の方がよっぽど変わっている

夏油はすぐさま嬉しい気持ちとなる

尊敬している大好きな先生がこれだけの生徒に慕われており「知りたい」と言ってる事に

何も聞かずに「呪詛師」と言った上層部、何も知らずに「裏切り者」と言った同業者、何も見ずに「嫌われ者」と言った人間

それらが酷く夏油の心情をかき乱しているが、当の本人は気にする事もなければ「だからどうした?」と笑みを浮かべて言う

本当はもっと否定して欲しい、だけど「それが事実だから何も言えないし、否定した所で俺の未来は変わらないよ」と言った悲しそうな表情に胸を苦しめた

だからこそこうやって話を聞いて理解はしなくとも、少なからず知られるのは嬉しいと思った

夏油「私は別に構わないよ。じゃあ次の授業にでも話そうか?私は今から県外の任務があるから今日中には無理だね」

虎杖「次っすね!?やったー!!」

釘崎「虎杖、白川先生に尊敬してるからな」

夏油「そうなんだ」

虎杖「だってあの先生普通に強いじゃないすか!」

笑顔で言う虎杖に少し呆れ顔の釘崎、そして最近また氷月に対する気持ちが変わった伏黒に夏油は「良い傾向かな」と自己満足であった

夏油「では私は行くね」

虎杖「気を付けて行って来てください!」

伏黒「怪我はすぐに家入先生の所へ行ってください」

釘崎「まあ心配はしてないけどね」

夏油「うん」

賑やかな教室を後にし廊下へと出る、数メートル先には廊下の窓から外を見ている氷月が立っており、その姿に儚さを感じた

『...あ、傑』

夏油「行きましょうか」

『そうだね』

無表情で窓を眺めていた氷月は夏油が近づいてすぐに笑みを貼り付け、その隣よりも少し後ろに付いて歩いて行く

2つの足跡が響く廊下を長く続き、階段を下りて昇降口へと向かう

夏油「......「ミドリクン」と一緒に居たいですか?」

意地悪な質問だと自分でも思った

夏油は己の質問がとても卑怯な物である事に気づくも遅く、氷月はクスリと笑って答えた

『「居たい」か?と問われれば「居たい」と言うに決まっているじゃないか。僕達は例え「腐れ縁」「友達」「親友」でもあり「同じ時を過ごした敵」でもある。色々な意味で「馬が合い」「馬が合わない」者なんだよ。ここまで来たら「家族」じゃないかね?』

夏油「......」

『でも今のミドリクンは何かが違う。僕はミドリクンを「信じてる」訳じゃない。ただ、再開して違和感を感じただけなんだよ』

昇降口から外に出ると、真っ新な空に白い雲が移動して行き、風によって揺れる木の葉を氷月は見ており

その背後に夏油が立っている

『傑。僕は此処でも断言するよ。僕は必ず、君達をもう一度裏切る。その時、僕の事を好きにしてくれ』

夏油「!、なぜ...」

『僕はミドリクンさえ止められれば「今」がどうなろうと「明日」がどうなろうと、全てがどうでもいい。今まで築き上げた「信頼」も、今まで蓄えた「知識」も、今まで磨いた「経験」も、全てがどうでもいい。僕の目的はただ1つ、シンプルで簡単』

振り返った氷月の表情は今までの憑き者が取れたかのような、爽やかで悲しみを宿した笑みを浮かべた

『ミドリクンを止める事』

その言葉を聞き終えた瞬間、自分でも驚くくらいのスピードで

夏油は己の腕の中に「愛おしい」存在を抱きしめた
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