自分が平和ならいいんじゃない?
□03.
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夏油傑は高専の敷地内にある大きな樹海に訪れていた
数年ほど前から何処か違和感を覚えた樹海に探索しているが、一向に成果は出ず、違和感の正体さえも分からないので同級生や先生にも相談できずに1人で探索を繰り返していた
樹海の中を探索して約1時間、夏油は空気が少しずつ澄んでいる場所に訪れ、そのまま進んでいくと何か透明な物体にぶつかった
夏油「これは...」
透明な壁に触れてみるとこれはまるで「帳」
しかもそれだけではなく、夜のような暗さはなく、透明なガラスのように透けているのだ
?「それは「水の帳」さ」
夏油「!」
背後から聞こえた声に振り向くと、長いローブに全身を包み込んだ人間が木の枝から足を投げ出して座っていた
?「本来「帳」とは「活動している呪術師の存在を見えにくくする」のと「呪霊を炙り出す」効果のある結界術。けどこの「水の帳」は「全ての生物から視認しにくく、また感じ取りにくくする」ための結界術さ」
ブラブラと投げ出した足を動かしながら、ペラペラと喋っていく
夏油はそこに「相手に効果を教えると何かしらの効果が上がるな」とすぐに考え付いたが、相手から得られる情報はなるべく入手しておきたい
今後「呪詛師」などが使用してくる可能性も少ないかもしれないが「知っている」のと「知らない」のでは大きな差が生じる
そのため出来るだけ相手から情報を入手したいと思っていた
?「入場制限はないよ」
フワリと風に舞うローブ、鼻まで隠れたフードが揺れると五条悟の六眼とは異なる、冷たい印象がある瞳が一瞬だけ見え、草地に足を付けた
?「ただし」
揺れるローブが風に乗ってさらに揺れる中、ローブを身に纏った人間はそのまま「水の帳」に右手を突き刺し
?「誰も「帳」が1重だとは言ってないけどね」
夏油「!」
それを言い残して「水の帳」へと消えてしまった
焦った夏油は「水の帳」に触れるも、そのさらに内側から頑丈な結界に阻まれている事がすぐに分かり、自身が油断した事で重要参考人を取り逃してしまった事へ焦り始める
すぐに解呪をしようにも「水の帳」の効果があってか解呪の部分が定まらず、また解呪をしようにもどうしてかそれを避けようと動く「訳の分からない結界」
一端「水の帳」の事は忘れ、その内側の結界を解呪しようとするもかなり難しく絡まり、また定義も普通ではない
こんな物を生み出せる「術師」は何としても「捕獲」をしないといけない
そんなこんなで休日に始まってしまったガチ解呪、「森からの違和感探索」が「ガチ結界の解呪」と変わった瞬間であった
一方、森の中を満足するまで探検して来たローブの人間「白川氷月」結界に足を踏み入れて10歩進んだ所で立ち止まって振り返った
「結界を張った者が認める者以外の生き物や呪霊の侵入を拒む」結界が張られており、それを「水の帳」で隠していたのだ
氷月はフードを取り、その特殊な「眼」の力を使用する
結界の向こう側では夏油が懸命に「水の帳」と格闘しながらもう1つの結界の解呪をしている
『1時間、いや1時間半、かな?』
腰にある小さなポーチからスマホを取り出し、現在時刻を確かめるとお昼前
『歓迎会でもないけど、まーご褒美』
鼻歌を歌いながら結界の中心へと向かって行く
歩いて5分、大きなクスノキの下に雨よけのような感じでロッジが存在していた
白梟「おかえりなさいませ、主」
洗濯物を干し終えたホーホーが出迎えた
『うん。ただいま。急で悪いけど今から1時間以上2時間以内に客人が来るんだけど...』
白梟「!、呪術師ですか!?」
「呪術師」の単語に「やっぱり鋭いなー」と呑気に思い、臨戦態勢へとなったホーホーを片手を上げて制する
『まあそんな所さ。おっと、そんなに身構えないでくれ。彼は僕の「客人」あくまで「客人」だよ?お昼ご飯を作って欲しいんだ』
白梟「...「客人」と言う事は」
『そう。彼はその1人だよ。大丈夫、此方に危害は加えないさ』
臨戦態勢を解き、肩を落とすホーホーに「ごめんね」と肩にポンと手を置く
事情が分かっているホーホーを特に何も聞く事なく、ロッジの中に入って行く主を心配性な表情で見守る事しか出来なかった