毎日楽しく団子を食べよう

□4.休日の過ごし方
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太宰sid



彼は偽りの笑みしか浮かべない

太宰「白川君、明日はどこへ行こうか?」

『うーん、電化売り場』

太宰「何を買うの?」

『モニター。探偵社で使っているパソコンのスペックに問題はない(弄ればいいから)けど、モニターが小さすぎていくつか開くと見づらいからね』

太宰「ああ、そういう事」

日が完全に沈む前に部屋へと戻った私たち

夕食を食べ終え、後は寝るだけなのにどうしても彼が窓辺から離れない

その横顔を見て、私はいつも思う

彼は心の底から笑みを浮かべない

心の底から笑えないのか

それとも

心の底から笑う事を禁止しているのか

前者の場合はまだ納得がいくかもしれない

大切な家族を失った悲しみがあるからこそ、毎日がつまらなくなった

だが後者の場合は誰が得をするのだろうか

自分にそれだけ罰を与えて、彼は何がしたいのか分からない

実際にそうだ

あの日も、4人での護衛任務でも

最後は私との約束を破って助けに来てくれた

約束を破ってまで助けてくれたのは嬉しかったけど

元をたどれば、信用がなかったと思えてしまう

この思考もポートマフィアの時代に身についてしまったものだ

太宰「何を見ているの?」

『ん?空』

太宰「空?」

窓の隣に座っている彼の視界をわざと邪魔して、私は窓の正面から暗い空を見上げた

『人間はいつから空が青いと思っているのか、ってね』

太宰「白川君...」

空を見上げる彼の表情はいつもと違った

その眼差しは優しく、表情も自然と微笑んでいて

蒼い瞳の中に映る満月がこれほどまでに綺麗だと思ったことは一度もない

夜は危険に道に入り込みやすく、危険な巣に近づきやすい

優しい月が私たちをあざ笑っているように見えていた私でさえ

彼の瞳の中の月は美しいと、心の底から思ってしまった

『何?太宰君』

太宰「あーあ、何でもないよ」

『?』

私の視線に気づいた彼がこちらを向いて、表情がいつもの偽りの笑みに戻ってしまった

まあでも、いい笑みを見られたからそれでいいか

太宰「ほら、もう寝るよ。明日はモニターを見に行くんでしょ?」

『うーん、そうする。夜食の団子を食べたかったけど、朝でいいや』

太宰「食べない選択肢はないのね」

『ないよ』

最近は同じ布団で寝ている

冬が近づいて彼が寒がっていたから抱きしめて眠っている

『うーん、毎回思うけど、太宰君が暖かいのが腹が立つ』

太宰「いきなりだね。そして理不尽だね」

抱きしめてすぐに文句を言われる

全く、可愛げのない後輩だ

私の腕で彼の体を包み込む

いつもはそれだけなのに

太宰「どうしたいんだ?」

今日の彼はどことなくおかしく、私の胸元のシャツを片手で握りしめていた

『...もしも。もしも俺が探偵社を裏切って、探偵社の人間を殺したら、キミは俺を殺しに来るかい?』

太宰「え?」

『異能を振りまく化け物になっても、キミは俺を殺してくれるかい?』

おかしい

精神が普通ではないとは前から思っていたし

異能力者の大半がおかしな奴が多い

けど、彼がこんな事を言うのは初めてだ

しかも、彼自身から話している

『太宰君。俺は俺が怖い。もしも異能が暴走したらキミ以外の人間を殺す自身しかない。だからこそ、俺はキミから離れられなくなる。それが嫌だ』

太宰「白川君?」

『だから、ここで宣言するよ。俺はいつか、遠くない近い未来で、武装探偵社を裏切る。裏切った俺を許さないのは当然のように受け止めるし、殺したければ殺せばいい。俺の処分は、キミに任せる』

表情が見えない

顔を布団の中に埋め、私に何も悟らせないようにしている

ただでさえ、キミの存在には疑問が多いのに

どうして今、そんな事を言うのだろうか

私が信用できないのか、それとも

彼自身が何かを決めた瞬間なのか

裏切る理由、殺す理由

全てが何処かで混ざり合っている線なのに

いつまでたってもその線の先の交差点に辿り着けない

それは私が情けないからか、彼が隠すのが上手なのか

乱歩さんだったらすぐに分かるのかもしれない

あの人の推理力はただ者じゃないから

『おやすみ太宰君。この話は、俺と2人の約束だよ』

私が考えているうちに彼は深い眠りへと落ちていった

彼の唐突な発言に私は身動きも取れなかったし

思考の中で何も解決しなかった

太宰「キミは、彼なのかい?」

1つの可能性が見えていた

消えた黒河永久の死体

空白の記憶を持つ白川氷月

この2人は何処かで矛盾した生活を送っていた

孤児院出身だと言った黒河君

スラム街の老婆に拾われた白川君

どこで間違っているんだ

どこで交差しているんだ

全く違うはずの証言なのに

私にはどうしても同じに聞こえてしまう
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