毎日楽しく団子を食べよう

□9.残された者
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「白川氷月さんの意識が戻りました」

安吾との話から更に2週間

早朝に病院から電話が掛かり、急いで着替えて家を出た

いつもは綺麗な街並みや行く人を見ながらのんびりと出社しているけど

今日はそんな綺麗な街並みを無視して、行く人の間を掻き分けて走っていく

早く会いたい

その思いだけが、私を病院へ急がせた



彼の病室の前へと来て、ノックをした

?「どうぞ」

中から聞こえた声に安心して、私はスライド式の扉を出来るだけ丁寧に開けた

太宰「!」

ベットに、座っている

それだけで私は全身の力が抜けるような安心感がやってくる

中に足を踏み入れ、後ろ手で扉を閉めた

動いている彼をどれほどまでに待ち望んだか

それだけのために、私は入水すらもしていない

入水をしている暇があるのなら、私は彼の傍に居たかったからだ

私はそれだけ、私の中に大きく彼の存在を感じていた

太宰「氷月君」

彼が許可をしてくれた

今でも覚えている

彼の名を呼ぶ者は、きっとこの世では私と社長くらいだろう

ベットの隣に立ち、彼を見た、が

太宰「...氷月君?」

『何ですか?太宰君』

弱々しい綺麗な白い肌

何も写さない青い瞳

拒絶をする敬語

太宰「ねえ、氷月君」

『何ですか?』

他人行儀な言葉使い、それだけでもう

彼は人間を拒絶している事に、私は気づいてしまった



何度話をしても彼の他人行儀な言い方が直らず、私は彼に言葉使いには諦めた

『いいのですか?裏切りの化け物が此処に戻ってきても』

太宰「社長命令でもあるし、キミには此処がいい場所になる」

『...分かりました』

約1ヶ月、治療、検査、リハビリ、生活習慣

それらを病院で少しずつ行い、昨日退院をした

探偵社は新たな事件や備品整備等で抜ける事が出来ずにいるため

彼にはつまらない事をしてしまったと社員全員が思ったようだ

最初に社長室へと行く

彼は自分から話す事はない

自らを過小評価し、自分の思った事に疑問も抱かなくなった

それは異能力のデメリットで感情がなくなってしまったから

戻る可能性は低い

けど「ないわけでない」と言う不確かな情報しかメンタルケアの医師が言っていた

太宰「社長。太宰です。白川君を連れて来ました」

ノックを3回、聞こえてくる声

福沢「入りなさい」

太宰「失礼します」

扉を開ける

中には勿論の如く社長が自分の椅子に座って、彼を待っていた

私も今回は同行して彼の少し後ろに立ち

この2人の会話を聞いた

福沢「...よく、戻って来てくれた」

険しい社長の表情から、微笑みが零れた

久々の再開に喜ぶ祖父のような、そんなような笑みだ

『...いえ』

福沢「キミは、此処から出ていきたいかね?」

『......』

彼は考える

失ってしまった感情よりも、過去にしでかした裏切りを深く考え込む

おそらくだが、彼の答えは1つだろう

しかし、それでは私や社長を困らせると思って回答を出せない

彼は人の心配を大きく気にするようになった

彼は、自分の中で葛藤している

「裏切った自分が此処に居てはいけない」と言う恐れと

「心配も迷惑もかけたくない」と言う不安

前者の場合が強ければ、彼は今すぐにでも行方を晦ませるか、牢に入るだろう

後者の場合が強ければ、私の傍にいつでも居てくれるだろう

私たちは「許さないでほしい」と言う彼の言葉を受け入れたくない

そうすれば、いつか彼は本当に精神的に死んでしまうから

逆に、私たちが「許す」と彼は罪悪感に潰されてしまう

どちらをとっても、彼はデットエンドの未来しかない

それを回避する方法を、私は考えているし

その考えを出した上で成功する可能性は圧倒的に低い

福沢「迷っているのであれば、戻って来なさい。私はキミのした事を「許す」。」

『!』

福沢「キミはキミの最善を考えた。だからこそ言う。キミの行動を「許す」代わりに、私はその道しか選ばなかった行動を「許さない」」

矛盾

これが彼を救う唯一の方法

「許す」代わりに「許さない」部分を提示する

それは対等であり、理不尽である事でないといけない

だからこそ、社長は

今回の氷月君の行動で世界に危機が訪れる前に対処した単独行動を許す代わりに

氷月君のそれしか選ばなかった行動を許さなと言ったのだ

社長から、救ってもらった恩人から言われるからこそ

強力な一撃だ

『...僕は、此処で、働きます』

太宰「(よかった...)」

逃げられない

それを察した彼の感覚はまだ残っている

例え此処から彼が逃げても

私や他の社員が彼を捕まえる

牢に居るのであれば救い出す

それが、彼には分かってしまった

だからこそ、私の考えている作戦が

勝利する可能性が増えた
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