いならなかったモノ

□01.未知数が未知と希望を呼ぶ
5ページ/6ページ

五条の目の前がクリアになった時、廊下にあったはずの窓は壁ごと消えており、その場にいた氷月も上から降って来た呪霊もいなかった

五条「まさか...!」

なくなった壁から下を見るとボロボロになってうつ伏せに倒れている氷月と、手の指をポキポキと鳴らしながら氷月に近づく黒い人型呪霊が見えた

五条の知ってる報告には1級呪霊が5体以上存在していると聞いたが

恐らく、互いが互いに戦い争った結果

1級の1体が残り、特級へと変貌を遂げたのだろう

氷月の読みは正しかった

だが当たって欲しくもない最悪な方向

しかも行われたのは昔の呪術である「蠱毒」

食われないために強者として相手を食い

弱者として食われた怨念や執念を背負うため、呪力もそれなりに増している

いつものノリで氷月の元に瞬間移動する

五条「生きてる?」

『はい、なんとか...』

氷月と呪霊の間に丸いクレーターが出来ている

これは氷月が結界モドキを使ったと分かる証拠であり、またそれをこの呪霊が割った事も分かった

ヨロヨロ立ち上がりながら服に付いた土を払い落す

左腕を抑えながらその場で立ちあがる

五条「大丈夫?」

『問題は、少々ありますが大丈夫です』

黒い体に青い痣が全身にある

白い眼玉に赤い瞳をグルリと回し、2人を見ていた

五条「さて、どうやって祓う?それとも、僕が祓おうか?」

ニヤリと弧を描く口を視界の端で捉える氷月

五条にとってこの相手は「楽しい」のか「雑魚の中でもピカイチ」なのかと思考をしていた

『五条さんがお暇でしたら』

五条「うーん、じゃあ、氷月に任せても大丈夫かな?」

『あれ、絶対に強いですよね?僕の呪術なんて全く効かない気がします』

五条「大丈夫大丈夫。なんかあったら絶対に生きてるうちに助けるから」

『...そう言うのであれば』

1つ2つと深呼吸を繰り返し、相手へ近づく

その足取りはこの病院へ来た時よりも重く、ゆっくり

意図せず怪我をした、おそらく「左腕」だけではないはずだ

走り出す呪霊、そして氷月の近くへ来ると宙へと飛び拳を突き出す

それに対し再び結界モドキを出す氷月だったが

『ッ!』

相手の拳が結界へと当たった瞬間、今度は意図も簡単に割れた

それを少なくとも予想していた氷月は顔面に飛んで来そうだった拳を最小限の動きで避け、右足を軸に、左足に呪力を込めて相手の顔面を蹴る

相手は宙に居た事もあり、10メートル程度後ろへ吹き飛ばされた

五条「上手いね...(身体に痛みが生じて呪術を使うための集中力が削がれた、か。見極めをミスしたら確実に殺されるね)」

初めての対人と言う事もあり、相手の攻撃が当たると予想していたが

この廃病院で見た戦闘経験、身体能力、判断力、憶測がしっかりと出来ている事

3年以上前の記憶がない以上、その辺は初心者同然だと思っていたが

これは大きな誤算だった

五条は場違いにも「また」楽しくなった

未知数がさらに未知を生み出す「夜回氷月」と言う存在が全てが

楽しく、また欲しい、と

『......(さっきよりもこの術の威力が落ちている。五条さんは言ってた。「呪術を使うにも集中力が必要だ」と。痛みは誤魔化せない、なら「忘れればいい」)』

三度大きく吸って吐いた深呼吸、その横顔は

「夜回氷月」ではなかった

五条「...氷月」

明らかに、強者に対して何かを学習しようする「白川氷月」の横顔だ

再び呪霊が走り出し、再び氷月が構える

結界モドキをまた出そうとする

どうすればいいのか考える

相手がこの結界に触れるまで残り2.1秒

――片手でダメならどうすればい?

氷月の頭の中に少女の声が聞こえた

そしてそれは、明らかな助言だ

『片手でダメなら...、片手?』

人間に手は2つある

――そう、そうすればいいのよ

突き出した左腕を右手で掴む、右手からも左手に呪力を送り出す

五条「おお!」

圧倒的な進化、戦いの中で工夫を凝らすその姿に

五条は素直に興奮している

五条「(だが惜しい。もう一捻り!)」

スポーツ観戦をしにきた観客のように心躍る

最初よりも頑丈な結界モドキが出来上がり、呪霊はそれを殴る

呪霊の拳は少々だが凍てつき弾かれるも、先ほどと同じ距離に着地した

結界モドキにも明らかで大きな罅が入ってる

『(まだ、足りない!)』

今の結果で足りないとすぐさま考える、片手よりも頑丈な呪術が使えたが、あの呪霊の攻撃を完全に防ぐ事は出来ない



※相手は五条の判断で特級です



ニヤリと笑う呪霊も楽しくなってきている

「人を殺す」事よりも明らかに「戦う」事を優先している

両手に同じ命令をしても作業効率が落ちる、ならば

三度拳を構えて走って来る呪霊、その拳には先ほどとは桁違いの呪力が上乗せされている

『作業の分担...!』

再び左腕を構え、それを右手で掴む

右手で呪力をコントロールし、左手で呪術をコントロールする

五条「待ってましたっ!」

見ているだけで大興奮している五条が大きな声で喜びの声を上げた瞬間

「結界モドキ」はより「強力な結界モドキ」へと進化した

「強力な結界モドキ」に拳が触れる寸前、相手の拳にあった呪力は吹き飛び、右肩まで凍結させ、完全に廃病院の壁を貫通した

『...飛んだ』

その事に氷月は驚きを隠せていなかった

格の違う呪霊を、完全に弾いた
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ