NLCP*ブック

□夏のメロディ
1ページ/1ページ



一緒にいる時も、離れている時も。
君を愛し続けよう。



生温い風が髪を揺らし、風声が波音に消える。
静かな夏の雨に濡れた浜辺は、湿った匂いが立ち込めていた。
この時季に多い急雨だが、然程長くは続かない。
到着するまでに、少し濡れてしまった二人だったが、気温が高いこともあって、南風に吹かれている内に、服は直ぐに乾いた。

二人、というのは。
自分の隣に座り、鼻歌を歌っている少女を、ちらと見る。
此処に来たのは、カカシ一人ではなかった。

先程まで波打ち際で、波と戯れていたサクラは、サンダルを手にカカシの隣に戻って来た。
もう良いの? と尋ねると、うん、と言って、垂らした両足をバタバタと振り子のように動かし、水気を落としている。
折角連れて来たというのに、それからサクラは海に近付かなかった。
海水が少し、冷たかったのだろうか。
それとも一人だけ水遊びをするのも、飽きてしまったか。
濡れた白い爪先が、寒々しくも見える。

強い風が吹き、彼女の桃色の髪が、視界の隅で舞い上がる。
今は夏。
この肌に当たる生温い風も、サクラを優しく擽っているだろう。
――大丈夫、寒くない。
色白の項を覗かせながら、耳に髪を掬って掛ける何気ない仕草を、カカシは眺めた。


君の全てを、愛し続けたい。
自分の全てを懸けても。
一緒にいる時も、離れている時にも。
……願わくば、いつでもその側にいられるように――。


「明日から、また任務ですか?」

耳を飾るメロディが、不意に途切れる。
サクラの言葉に、現実に意識が返ってくる。
此方を見ず、少し俯き加減に海を眺める様子に、カカシは笑い掛けた。

「……また来よう」

答えになっていないのかもしれない。
子供騙しなのかもしれない。
事実、次の休日がいつになるかなど、分かったものではない。
だがサクラはコクリと頷き、鼻歌を再開する。
幼い横顔を見て、カカシは察した。
サクラは足が冷えた訳でも、海に飽きた訳でもない。
普段から里を留守にしがちなカカシの側に。
少しでもその側にいたかったのだ。


口遊むメロディは、良く知らない。
だが彼女が良く口遊むことは、知っている。
優しい旋律に、カカシは耳を傾けた。
声を飾るように、いや、波音を飾るように奏でられる彼女の音楽を、瞼を下ろしてじっと感じる。


一緒にいる時も、離れている時にも。
生きている限り、君を愛し続けよう。
容易には言えない誓いを、密かに心に浮かべて、隣に置かれた手にそっと手を重ねた。



彼女の軽やかな歌声が、螺旋を描いて、青い空に響いていく。
どこまでも明るく、どこまでも愛らしく。
夏色の空に、それは響いていった。







(あなただけを/あおい輝彦)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ