1st seazon

□始まりの唄
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二年C組には、始業式当初からいつも空いている席が一つある。窓際の最前列。

クラスの皆は、その席の主に対して敬意と恐れを抱いているようで、

掃除の時とか、数人掛かりで丁重に運ばれていたりしている。

その姿は、この学院を牛耳るF4に対してのとどこか似ているようでアホらしく思っていた。



その空席の主と出会ったのは偶然だった。



赤札を貼られてから数日経ち、浅井達にダンパの件で騙された帰り道の事。

あたしは、外を出ると脱兎の如く走っていったのだが、その道中で人にぶつかったのだ。


「あっ、ごめんな…」


「大丈夫か?シャンパンをぶっ掛けられたようだが…」


「えっ…」


心配してくれるばかりか、中での出来事を言い当てられて顔を上げると、

品の良いラフなブラウスと洒落た刺繍のついたジーンズ、

これまた洒落たフレームの眼鏡をかけた女の子が目の前にいた。

ぽかんとしているあたしに彼女は苦笑いして言う。


「説明するべき事は沢山あるけど、私の立場上、長居も出来ないからね。

自宅まで送ってあげるから、これから迎えに来て貰ってる車に乗って。いい?」


捲し立てられるように言われて、頷く事しか出来ないが、

彼女が善良な人柄である事はすぐに分かった。

それからまもなく、彼女が元々呼んでいたのだろう車に乗せられる。


「自宅へ返す前に、さっき言った説明をする為に、私の家へ来てもらって良い?」


「説明を聞いてから帰ると、両親が寝ていて帰れない中へ入れない可能性が高いから、

その前に説明をしてくれると助かるんですけど…」


ありのままを言うと、彼女は少し考える。車が発進した。


「あなたから聞いた住所だとここから車で十分か…。一方的だけど、簡単な自己紹介ならできるわね。

私の名前は舞原瑠璃。英徳学園高等部、第二学年C組。

類にいさんからちょっと強引だけど、貴女がお嬢の戯れに巻き込まれないように監視役をする事になったの」


「えっ、同じクラスなの?それに、類にいさんって…」


一気に流れてきた情報に混乱する。それが顔に出ているのか、瑠璃さんは溜息をつくと苦笑いする。


「こうなるのが想像つくから、ゆっくり話したかったんだけどね。

まあ、明日からどのみち登校する予定だし、その時でいっか。

貴女のお家って、ここであってる?」


彼女に問われて、車窓の外を見ると見慣れた家の近くの風景が見える。

車が止まり、降りる前に引き止められる。そして、彼女から一枚の名刺を差し出された。

「学校内だと、あまり役立たないかもしれないけど、プロフィールを知る分には十分だから貰っておいて。

じゃあ、お休み。1ヤードも距離ないけど、夜道に気をつけて」


「お休み…」


一方的に手渡されているだけの名刺を、私はまた何となく受け取り、何となく挨拶を交わした。

そして、彼女の事について詳しい事は何も分からないまま、

あの罠に嵌められたダンパの事も殆ど覚えてないままに帰宅したのだった。
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