1st seazon
□始まりの唄
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翌朝登校すると、教室の前、そして教室の中がいつも以上に騒がしかった。
何事だろうと思っていると、真木子ちゃんと彼女と話しているお嬢様から、事情を把握した。
原因は、窓際の一番前に座っている人、昨晩偶然出会った瑠璃さんだった。
なぜ、制服の上着が黒いのかは分からないけど、一応しっかり着こなしている。
そして、机の上には、見るからに高そうなチェス一式がなぜか置かれていて、
瑠璃さんによって白、黒交互に駒は動かされていた。
あたしの姿が目に入ったのだろう。チェスの駒を動かすのを止めると、丁寧にチェス一式をしまう。
そして、あたしの目の前に立った。
改めてみると、背はあたしより若干小さいけど、顔立ちは異様な位整っている。
そして、無言であたしの手首を掴まれると、見かけからでは想像つかない力で引きずられて行った。
いつの間にか教室を出て廊下を突き進み非常階段の方へ向かっている。
途中であの浅井達とすれ違ったけど、それすらもスルーで非常階段の扉を開けた。
非常階段の扉を開けるとすぐ近くの壁にF4の花沢類がよっかかっていた。
あたしが驚いている間、瑠璃さんが普通に声をかける。
「類にいさん、久しぶり。下、お邪魔しても良いかな?」
「瑠璃、何となく話したこと、覚えてたんだ。いいよ」
「ありがとう」
瑠璃は笑みを浮かべると踊り場まで連れられる。
階段を降りようとする時、花沢類に呼び止められた。
「そうだ、ねえ!フランスと日本の時差ってどれくらいあるか知ってる?」
「はあ?フ…フランス?なにいきなり」
あたしは何を言っているのか分からず首を傾げるが、瑠璃さんは何か知っているようで、
一瞬悲しそうな目をしていたのは気のせいだっただろうか。
すぐに慈愛のこもった笑みで「8時間。サマータイムによって変わるかもだけど」と答えた。
「ありがとう」
花沢類が彼女にお礼を言うと、他には興味なさそうに、だけど何か嬉しそうに口ずさむ。
その意外な様子に嬉しいと思う反面、ほのかに切なさを感じたのだった。