災来鳥獣化記
□或る場所
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「…………。……」
軽く飛んだ五感はぼんやりとしており、意識だけが残った。
音は聞こえず、匂いは嗅げず、光は見えず、ただ横たわっている。
末梢神経はほぼ働かず、中枢神経だけの意識も尽きようとしていた。
「キュ……、…………」
わずかな運動神経を用いて声を発しようとするも、人ではあらぬ声がこぼれるのみ。
使い果たした身体、精神は崩れ落ちる。五感がそうであるように、消えていく意識に何も思わない。
ふと、横から安堵の息が聞こえた。
生の消える前の、最後の息使い。
自らも、これが最後かもしれない。
出来る限りの息を吸う。横隔膜は僅かに動き、ごく少量の酸素を体内に取り込んだ。
意識が死んでいく。体が死んでいく。生が死に変わる瞬間、痛みを感じ、意識は無くなった。
二つの命が、失われた。