災来鳥獣化記
□始動する
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六畳の部屋の大半は、段ボールの塔に埋もれている。
黒ずんだフローリングは汚らしく、閉まらない戸棚は無防備にも中を晒す。
煤が付いたかのように濃く半透明な窓は、彼がいくら拭いたとしても透けない。
天井から吊られている白熱電球は、今にも切れそうな糸によって宙にある。
「はぁ」と一つ、諦めの意のため息が彼から漏れる。
ここへ越してから二週間、あらゆる手を試してみたものの大きな成果は挙げられなかった。
強いていうのならば埃が除かれたというだけ。
実際よりも暗く感じるこの部屋独自の雰囲気は消えない。恐らく、これからも消える事は無いだろう。
ふと彼は、目の端で何かの気配を捉える。それの先、毛布は不自然に膨らみ、もぞもぞと動いていた。
「頼むから、もう入ってこないでくれ」
通じる訳が無いと分かっていても、文句は口をつく。
思いきり毛布を上にまくすと、狐が中で丸まっていた。足の先は黒くない、ホンドギツネだろう。
突然の事に驚いたのか、小さな客は慌てて部屋の隅の穴の一つをくぐり抜けた。
動物達の専用通路となっているその穴は、いくつ存在するのかすら把握出来ていない。