短編

□追憶に酔い今を生きる
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〜1 何も無い日が特別に変わる〜
俺達は大昔、ある神様に使える白鷺の一族であったと言う話は小さい頃から何度も聞かされていた。勿論そんな記憶は遠い昔のことで話として聞かされることに俺は酷くどうでもいいとすら思っていた。
神に使え長く生ききた俺たちは鳥としての生命を終え、妖として生まれ変わり、今を生きている。

「そういえば知ってるか?山の麓にまた村できたんだって」

「又?人の子は移り変わりが早いからかな?」

「そりゃ、私たちとっては数分に感じる間人は数百年生きてると言われてるし生きる時間が違うのさ」

「ただな、噂だけど、その村に厄介な人の子いると聞いた」

「厄介なって?」

「どうも不思議な力を使い、次々にここらに住む妖(かれら)を殺めているものがいるとかいないとか、」

「どっちだよ…」
そう仲間内で笑い話として聞いていた、人物と実際に会うことになるとは思っていなかった。
どうか命だけはと命乞いする妖(かれら)と人の子に目を移す。
この辺りで見る人の中でもとびきりいい召し物を身につけていることが遠目からでもわかる

「あぁ、だから俺はお前らの殺めに来たわけじゃないって…俺はただあの人にお礼を言いに来ただけや……っ…」

その人物は、困った様子で被る笠を触れていた。ただどこか辛そうに息をする様子に、見ていた俺は、小さく息を吐き隠れていた木陰から姿をみせた。

「そこで何してるんだ?ほら、あとは俺がどうにかするからお前たちは帰りな」

立ち去れと周りにいた妖(かれら)に声をかけ、彼に声をかけた。

「おい、大丈夫か?」

俺の声に彼はゆっくり視線をあげた。

「……と、……やっと、………」

なにかの言葉を紡ぎ出す前に彼の体が大きく揺れ、地面へと崩れ落ちていくのを急ぎ支えこむ。
触れた体はとても熱く、近くで見れば顔色の悪さすら伺える。

「…はぁ、間に合った…。こんな状態で一体ここに何しに来たんだ?」

自分の腕の中で眠る彼の目元を両手で優しく覆い隠し翼を広げそっと包みこんだ。
少しでも苦しいものが和らぐようにと願った。

苦しそうに眉間にしわを寄せていたものが少し緩んだ様子にそっと頭をなで、眠る彼を起こさないように抱え込み、仲間の元へ帰るために羽を広げた。
人のように立派なものでないが、仲間と暮らす家に彼を運び込むと、仲間の一人釘をさされた。

『こいつだよ、この前言ってた厄介な奴、何でそんな危険なやつ連れて来たのさ』

「仕方ないだろ、見過ごせなかったんだから、それにお前が言っていたのと違う気がしたんだよ。お前らに危害を加えるようなら俺がどうにかするけど。確証ないし少し隠れててくれるか?」

「んーいや。お前が大丈夫だって思って連れてきたなら私はお前を信じるけど」

そう言い、仲間は眠る彼の顔を覗き込み、その場に腰を下ろした。

「それに悪い予感はしないけど一応ほかの仲間には近づくなとは声かけておく」

「あぁ、頼んだ」

彼が目を覚ましたのは一時(いっとき)がすぎたあたりだった。
閉じられていた瞳がゆっくりと持ち上がり、俺たちの姿を見ると勢いよく起き上がった。

「ここは!?俺はどれぐらい寝てたんや?」

「眠っていたのは一時だよ。熱、下がったみたいでよかった」

「あ、確かにどことなしか体調がいいんやね。い、一時!?……助けてもらったのに悪い、屋敷に帰らないと、すまない、このお礼は必ずする」

そう深々と頭下げた彼に俺たち2人には目を開き、互いに見つめ返しこえをあげて笑った。

「あぁーほんと、お前の言っていた通り悪いやつじゃなさそうで安心安心」

「何を心配してるんだよ、だから言っただろ?別にお礼なんていらないけど、帰るなら山の麓まで送るって行く。まぁ、少しだけ待ってくれるか…一応君たちが使っても問題ない薬を煎じてるからそれだけ持って帰りな」

「いや流石にそこまでしてもらわけにはいかへんよ、それになんでそこまで」

「なんでって君が噂で聞くほど悪い人じゃないってわかったからかな、仲間に危害を加えるようなら今すぐにでも立ち去ってもらうけど、そうでもなさそうだし、それに助けた手前そのまま返すとこっちが気になるだけだよ」

作った薬を特殊な紙に包んで彼に渡し
そっと抱え込むと彼は少し困った様子で阻止する言葉を紡ぐ。

「あのさ。やっぱり下ろしてくれへん?1人でどうにか帰れるから」

「悪いけど、それは出来ない。ここから麓までは距離がある。背中に背負うとつばさが出せないから、少しの辛坊だから静かに目を閉じてて貰えないか」

そうどこか恥じらいに頬赤く染める様子に、俺はそっと頭を撫でていると仲間のひとりが声をかけてきた。

「あ、ちょいちょい、私も手をかすよ?、こっちをお前が持てばどうにか抱えずに対応できるだろ?」

そう言って仲間の一人が大きな布を持ってき袋のような形をつくり楽しそうに笑っていた。その顔には乗り心地や安全性は保証できないと言っているように見えたが、ただ抱えている彼からもこの体制よりはましという様子を感じとり、ゆっくりと下ろした。
仲間の持っていた布の片方を持ち、彼が座りやすいように形をつくり、俺達は共に羽を広げ、山の麓へと飛び立った。
そして、村の近くに来ると低空し、ゆっくり彼の足を地に付けた。

「空を飛ぶなんてゆめを見てるみたいで楽しかった、ありがとうな。そうだお前らの名前は?俺は紫鳳(しほう)や」

言われた言葉に俺達は首を傾げ、意味を理解したとき仲間の1人は困った顔をうかべ、俺はくすくすと笑ってしまった。

「紫鳳、悪いけど、俺達には君たちみたいに個体を表す言葉、名前と言われるものはないんだよ。それがなくてもなんの不自由もなかったからね」

「そっか、なら仕方ないな、今回もありがとう、このお礼は必ずするから、又な優しい白鷺達」

村の方へとかけていく紫鳳の姿を眺め俺達は仲間の元へ帰っていく。ただ、俺の中に彼が言ったある言葉が引かがっていた。

「どうしてあんなに嬉しいそうだったんだ?それに今回もって?」

その数日後彼は言葉通り、わざわざ、俺達の住む、山奥へとやってきた。


「あらあら、律儀な人だな、来てくれて悪いけど前にいた彼なら今はいないよ。君と会った近くに湖があるのを知ってる?彼ならそこにいると思う、残念だけど私は今は手が離せなくて連れて行ってあげれないが、今は明るく問題なさそうだし、気になるなら1人でいってきたらいいよ。まぁ、ここに居て戻ってくるのを待っていてもいいし」

「いや、会いに行ってくる」

「うん、君ならそういうと思った、行ってらっしゃい」

登ってきた山を下っていき途中で道逸れると、湖の傍で、足元を水につけ綺麗な羽を広げる、彼に目を奪われる

「綺麗やな」

俺の声に、彼は視線をゆっくりこっちに向け、優しく笑いかけ手を振る。俺は急ぎ彼の傍に向かった。

「やっぱり来ると思った、わざわざお礼に来るなんてほんと律儀な方だなー。まぁ、立ってないで座りなよ。君に聞きたいことが二三個あってさ」

「俺も君に言わないと行けないことがあるんや」

「うん、それもわかってるから、今日は時間もあるし、ゆっくり話でもしようか?」

隣に座る彼は俺が今から言わんとすることを見透かすように優しく笑いかける。俺は彼の隣に腰を下ろし口を開いた

「俺は君に言わないといけないことが会ってずっと君を探してた」

「俺に?あ、だからか…。俺は紫鳳にあったことはないと思うけど?、まぁいいや、だからってあんなに悪い体調で動き回ることは関心出来ないな」

「すまない。帰って家のものにもきつく言われたわ。けど、1日でも欠かしてしまうと会える確率はもっと下がると思うといてもたってもいられなかったんや」

「だからって自分の体を大切にしないのは良くないな」

彼は少し不服そうに眉をよせ、もう少し自分を大切にしろっと言うように軽く俺の頭を叩く。叩かれたところをさする俺に彼はくすくすと笑っていた。

「君が俺達妖を殺めるって噂があるのはどうしてかな?そんな風には見えないし、君がそんなことするようにも見えなかったから」

「あ、それは…」

彼を探してる時に、何度か妖と呼ばれるものに襲われたことがあった。一応身を守る術式でどうにか対応していると以外と俺自身の力が強く一体の妖を退治してしまったことがあった。
それが風の噂で流れ今では俺が彼らを殺め回っているとなった。と話すと彼は肩を震わせ、目元を拭う

「人の噂は今も昔も面白いな。それで根本的な話に戻るけど、なんでわざわざ俺を探していたんだ?」

「それは…昔助けて貰ったお礼が言いたかったからや」

その言葉に彼は腕を組み頭を傾げる。全く記憶にないと言っている様子に心做しか少し悲しくなっていると隣の彼が手を叩いた。

「あ、あそういえば昔悪鬼に食われそうになった幼子を助けた気が……まぁ、詳しい事は忘れてしまったがな…それが紫鳳だったってわけか」

彼の言葉に、小さく頷き、もう形としてない片腕をそっと撫でた。

「ありがとう、あの時君が助けてくれたことをずっとお礼が言いたかった。この前もだけど、君に助けてもらってばかりやね」

「それは違うけど…まぁ今回は間に合ってよかった」

間に合ってよかったと微笑む様子に俺は訳が分からず首を傾げると彼はこっちの話だと言うように俺の頭をそっと撫でた。
その後俺の片手を引いて元来た道を戻っていった


彼を連れて仲間の元に戻ると、まだ噂から怖がる様子の仲間たちに彼は大丈夫だからと説明すると恐る恐る彼と話にいき、次第に仲間たちに囲まれていた様子のを俺と仲間の一人は少し離れたところから見ていた。

「お前が言っていた変化とはこういうことか?」

「さぁ、私はそんなこといったかな?まぁ。今回は予言があっただけで私のなんてお前のものに比べると確率は酷く低いさ」

紫鳳は少し困ったように離れて見ていた俺達に助けを求める様子に、くすくすと、笑い、囲む彼らを落ち着かせる。

「こらこら、一度に話しかけると彼も困ってしまうだろ」

「そうそう、時間はある。ゆっくり関わればいいさ、それに私にも関わる隙を作ってくれ、」

少し落ち着くと紫鳳は少し不思議そうに俺たちをみた。

「やっぱりどうやって互いによびあってるん?」

「あ、彼らは俺やこいつの事は兄と呼ぶものが多い。生きている年数が違うからな」

「私と彼は共にいることが多いからな彼らにとっては兄と一纏めなのさ、けど紫鳳、君は大変かもしれないね。」

「そう、だから君たち名前をつけたらあかん?」

「名前を?それは別に構わないけど、初めはなれないだろうな」

「名前というものは人の真似事みたいで楽しそうだね。私は構わないと思う」

「そっか、なら良かった、実は君の名前はすでに考えがあって讀鷺(よる)って言うのはどうやろ?この前村から飛び立つ姿がとても綺麗で美しかったのが忘れられなくて」

「よるか、お前にあってると思う。お前は私達にとって優しく月のような存在だ。月が輝くには夜が来ないと」

「なんだそれ、けど、よるっていい名前だとは思うけど、俺が月ならお前は太陽ぽいよな」

「それ俺も思った。だからさ夜から朝に変わり登る太陽って意味でアサヒって言うのは」

「悪くないねー。私も人の真似事をして、お前のことはヨルと呼ぼうかな」

「俺もお前のことはアサヒと呼ぶようにする。紫鳳、ありがとう」

彼につけてもらった名をもう一度自分の中に落とし込む。俺達に名をつけたあと、紫鳳は他の仲間とも多く関わり、彼らに一人一人に名をつけて行った。初めは名前と言うものになれない様子の彼らも次第に人を真似るように互いを名で呼ぶようになった。
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