長編(男主)
□第3話
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白石の話を、空を仰ぎながら聞いていたアシㇼパは外から話し始めた。
「二瓶鉄造。その名前聞いたことがある」
「アシㇼパさんなんか言った?」
アシㇼパの声は中からじゃ聞き取れなかったため杉元が聞き返していた。自力じゃ抜け出せないようなので、杉元は外から回り込んでアシㇼパを引っこ抜いた。
「むかし猟師を殺して獲物を奪う悪いやつらがいた。私と父が熊を獲ったときも、そいつらに狙われたことがある。父はとっさに熊のお尻に傷をつけて逃げた。すぐに毛皮商のところに行ったら、同じ傷の毛皮を持ち込んだ男がきた。そいつは捕まったが、仲間はあと三人いて、山に潜伏し、次の獲物を探していた。だが、そいつらは狙っちゃいけない相手を選んでしまった」
「それが…二瓶鉄造?」
「ああ」
「棍棒で殺し回ったって聞いたぜ。最後の一人は山狩りの警察の前で首を折ったんだとさ」
チタタㇷ゚をつまみ、昔あったことを思い出しながら話したアシㇼパ。話を知らなかった杉元と華宮は顔を強ばらせた。その執念の異様さは、その話を聞いただけでも理解できるようなものだった。
「その二瓶ってのはどんなやつだ?容姿は?」
「毛皮商が数週間前に見たときは、茶色のアイヌ犬を連れていて、18年式の単発銃を持っていた。髪は白髪まじりで初老の男さ」
「アシㇼパさん、昼間見た男かも…!!兵士の装備をした男の連れだ」
「………」
「兵士…?まさか、谷垣のやつ…」
杉元が囚人の容姿を詳しく聞くと、どうやら昼間鹿を狩った時に見かけた人物と一致したらしい。杉元の呟きを聞いて、華宮は谷垣のことを思い出していた。
「谷垣?お前の片割れか?」
「ああ。二瓶が囚人だと分かれば殺してくれるかもしれない。それに賭けるか…」
「でも、そいつがレタㇻを狙っているんだろう。だから山に残っていると言っていたじゃないか」
「…うん、あいつは秋田のマタギだった。それに、もう脱走兵だから囚人なんてどうでもいいかもね」
「……お前、もしそいつと戦うことになったら、手加減しねぇだろうな」
「あいつは手負いだぞ。負けるわけない」
「いや、そうじゃなくて…もういいや」
杉元の問い掛けに、むっ、とした華宮だったが、意味が理解出来ていないため、小首を傾げていた。呆れた杉元はため息をついて、話を中断してしまった。
「明日も早いから早く寝よう」
「うん」
「そうだね、レタㇻも心配だし」
「白石、お前もさっさと眠れよ」
「は〜い。あ、華宮ちゃん、もうちょっとそっち詰めて……って、もう寝てる!」
「寝付きいいなこいつ」
アシㇼパにさっさと寝ろ、と促された華宮は、既に眠気がさしていたようで、座ったまま眠りについていた。まるで子どものようだ、と杉元たちは微笑した。