百合
□真面目骨抜き
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「どう?蓮華。」
夜、扉から、是非の確認。
これでもマシになったものだろうと思う。
あきれるのも切り上げて、書類を書く手も止めず
「これが終わるまで待ってください。」
なんて返せるくらいに回数は重ねている。
いつも突然やって来て、ためらいもなく求めてくる。
今日も同じだった。
いつも通り何の予兆もなく訪れ、ノックもなしにドアを開ける。
いきなり襲わなくなっただけ、しつけの甲斐はあったと言えるだろう。
背後を通り躊躇なくベッドに腰掛ける音もするが、それ以上は気にかけまい。
最後三行を定型文で締め、ちょうど手が止まった所で
紗良は私の後ろで音を立てる。
「翠蓮?」
先程まで談笑していた同僚の名前に振り返ると、紗良はヘッドボードに置き忘れた翠蓮のヘアゴムをつまんで、くるくるいじっている。
「寝てるの?ヤツとも。」
ニヤけた面。
からかいたいだけだ、分かってて言ってる。
浮気を咎めるつもりなど更々ない。
立ち上がり指からゴムを取って、机の上の書類の脇に置く。
そうして向き直ると、紗良は組んだ足の上に頬杖をしてそっぽを向いている。
後ろから抱きつくくらいするかと思えば、興味ないふりをする。
自分から来ておいて、十分も待っておいて、私にさせるつもり?
やる気なのは紗良さんでしょ。
紗良に近づいて、左手でこちらを向いた白い右の頬に触れる。
「今更先輩面ですか。」
それくらいくみ取ってくれるよね、ということですか。
そのまま柔らかいのどを撫で、浮き出た鎖骨を通って肩口まで手を伸ばす。
はねる薄い茶の細い髪が手の甲をくすぐる。
「大事な後輩ちゃんでしょ?」
もう、当然わかってくれるよね、って?
それくらいには大事にしてきたよ、って?
大事だからこんなことしてるのよ、って?
言い訳だとか甘えだとか、次々と単語が浮かび上がり、思わず手が止まる。
「大人げないですよ。」
よく言ったと思う。
今更見栄を張ることもないし、駆け引きを楽しもうなんて、らしくないじゃないですか。
そうして右の手でツナギのファスナーを下ろしても抵抗も反応もせず、肩口の手もするりと下ろして露わにする。
これだけ甘えといて、もう言い訳はできませんよ。
不意に紗良は頬杖を崩して蓮華の腰に手を回したかと思うと、
「若いねえ。」
なんて言いながら、腕を掴んでベッドに倒れ込み、その身をぐいと引き寄せる。
やはりまた次々と言葉が浮かんだが、
ようやく合わせられた紗良の目は色に染まり、ぎゅっと腰に回した腕は放さない。
とりあえず、まあ、いいか。
それくらい、したいって?
首に腕を巻きつけて近寄ってきた唇にかぶりつく。
熱い息を混ぜあって、わずかに上がった口の端まで舐め取る。
まさかまだからかおうなんて考えてるんですか。
そんな余裕ないくせに。
「そりゃ、後輩ですから。」
「いたわってよね。」
年寄りなんだから。
そんな風に囁けるのは今の内ですよ。
でも、そんな目をして欲しがるくらいなら、私にもそれなりにくれますよね?
そう思い直したきり私は思考を手放して、しばらく振りの熱に体を躍らせた。