百合

□IとUとOとJ
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 はあ、すき……

 机につっぷして頬が柔らかそうにつぶれている。その唇の間からは、もうすぐ涎がたれてくる。
 白い肌に長いまつ毛、さらりとかかる茶色の髪、明るく浮かぶピンクの唇……

 ああ、なんて愛衣は可愛いんだろう。

 今が真冬で、冷えた放課後の教室で、居残りで課題をしている最中だなんて、すっかり忘れてしまうほど。

 愛衣と同じようにプリントの上に頬をのせて、その顔を見る。
 目が開いたら真っ直ぐに見られちゃう。眠そうにするかな、あの一重の、くっきりと、こちらを見つめて……


「はあ、すき……」


 額をぐりぐりと押し付けて、にやけた顔をごまかす。
 でも押さえきれるわけがなくて、笑顔をそのままにちらりとまた見ようとすると……ぱっちり開いた目。

「わたしも」
「……へ」
「すき」
「……あ、ありがと」

 そんな! いきなり! まっすぐに! 言わないでよ! びっくりしてかっこ悪い返事しちゃったじゃない。

「いつもじゃん」

 その通りでございます。


「だからさ、チョコ、ちょうだい」

 へ?

「14日。好きなんでしょ?」
「いや、好きだけど……」
「じゃあ、決まり。おいしいの、作ってきて」
「え、手作り?」

 当然、というように真顔でうなずかれたら私が断れないの、もうとっくに知ってるのよね。

「やった!」

 ……かわいい。
 でもさ、いつもよりその笑顔がやわらかく見えるのは、気のせい?
 さっきの『だから』だって、違うのはわかってるけど、私のそういう好きを分かってるみたいで、期待しちゃうじゃない。

「へへ、家庭科同好会副会長・坂井梨沙にまかせなさい! お味は保障しますよ!」
「いやあ、持つべきはやっぱり料理のできる友だあ」
「ひどい! 私を利用したのね!」
「いつものこと〜」

 そこにちょうど監督の先生がやって来て、ちゃんと手を動かせと、二人して怒鳴られたものだけど……


 それから、2週間。
 2回の土日を挟んで、同好会の活動も珍しく週3回と増え、チョコ作りの腕はだいぶ上がったんじゃないかしら。
 この2週間私のお菓子を食べていない愛衣は、絶対びっくりする。
 それで、おいしーーー! 梨沙だいすきーーー! って、ただの餌づけかっ。

 問題は、そこじゃない。
 渡してからも、問題ない。
 さて何を、どうやって渡すか、だ。

 つまり、どれだけ私の好きを出していい?
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