短いの

□海辺の碑
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まず、助けての碑があった。

助けての碑は浜に悠然と立って、絡まりの風が撫でていた。
風は糸のようにもつれ合ったまま、碑に触り、時に叩いて去っていく。山から吹きおろした勢いのまま、波打ち際で、海風に立ち向かっている。
流木と尖った石が、砂に埋もれて、色のない戦いを眺めていた。

碑の足もとは欠けていて、丸く削られた角に、風がひとつ引っ掛かっている。
風の壁を越えて、アホウドリが昼顔のネットに降り立った。
ここは日本海だった。
灰を食べた雲は、鳥たちの頭の上で、うねりながら国を覆っていた。
 
アホウドリは目を覚ますと、碑に積もる風をついばみに来た。ひとかたまり、ふたかたまりを器用に挟み、くりんと背を向ける。3つめの塊は碑に絡みついたまま、糸を吐き出している。
鳥はどてどてと飛び立つと、そのまま壁に突っ込んだ。
風に揉まれながら、上昇気流に乗る。
口の端から垂れる糸は、壁を縫っていた。縫われた風は、かたまりとなって、下から上に旗めいている。
裾がびらびらと音を立ててわめく。
波打ち際は一体となって、轟々と昇っていく。

昼顔は地表で小さく揺れ、絡まりの風は相変わらず碑によりそっている。


助けての碑は今日も、そこに立ち続けていた。

 

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