クリスマス企画!

□SNOW LOVERS
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「ねぇ、せんせ!またあのおはなしきかせてよ!」

「いいでしょ?ねぇてば!」

その子供たちの快活な声の中心にいたのはひとりの青年だった。青年というよりは、少年に近い外見の彼は、うすい水色のエプロンに身を包み、子供たちに困ったような笑顔を向けた。

「またかい?……仕方ないなぁ」
その言葉とは裏腹に、顔には穏やかな笑みが浮かび、瞳は子供たちを暖かく見守っていた。その一言に子供たちの声は一層高まり、あれがいい、これがいい、とこぞって話し合う。しかし、その声は次第に喧嘩のようになり、頑として自分の意見は譲らない!と言いだす子供さえ出てきたため、青年は素早くエプロンのポケットに手を突っ込んだ。そして取り出された一つの手帳。青年は口を開いた。
「喧嘩しないの!今日は新しい話をするから、みんな知らない話だから静かにしてね?」

まさに鶴の一声だった。取っ組み合いの喧嘩に発展しそうな勢いだった二人の子供は互いに謝り、仲良く青年の話へと耳を向けた。

「さて…クリスマスが近いから、こんな話を持ってきたんだ」

青年の手にある手帳が開かれると、子供たちの声は一つもしなくなっていた。椅子に腰掛ける青年のまわり、背の大きな子供は後ろに立って、それを聞いていた。いつだって青年の話は、夢や幻想に満ち溢れていたから。
手帳はいわば本のようなもの。リフィール式の、クリーム色の淡い色合いに、パズルのピースが外れたような模様のボールペンが刺さっており、ボールペンにはパズルのワンピースがキーホルダーのようについている。しかし子供たちの誰一人として、青年がその手帳に小説を書いているところは目にしない。いつでも一緒におり、学校に通っていない年少組でも、だ。

だから、子供たちの間では、その手帳はこういわれていた。

――魔法の手帳、と。

「それでは、はじまりはじまり………」

青年の口から、物語が紡がれはじめた…。











白い粉のような、柔らかく、しかし甘くはないそれは、地面へと降り立ち、降り積もっていく。光を浮け、淡くそれを映し出すそれは、窓の外で静かに空からこぼれ落ちてくる。窓辺により、それを見れば、窓に張りつき、結晶と化して、窓を飾っていた。窓を少しだけ開け、手にとるも、残るのは水だけだった。それになんの感慨も浮かばず、アテムは暖炉の近くへと寄った。赤々と燃えるそれは、全てを飲み込むのではなく、包み込むような色で、家の居間をやわく照らし暖めている。

今年もうまい具合に降り積もったな、と思い、毎年世話になっているトナカイ達のツノを撫でた。その行為に慣れているカモシカ達は、アテムへと擦り寄ってきた。首に付いた鈴は、その動作のおかげで一つシャン、と鳴り壊れていないことをアテムに告げる。もうかれこれ、この仕事を初めて余年…およそ2年経つが、年一回の勤めだ。まだまだ自分は駆け出しだ。本当に自分は未熟で、真の意味で子供たちの夢となりえたる存在になりきれているのかという不安もある。自分を推薦してくれた先代は、最早この業界では伝説とまで言われている人で、今は隠居しているが、未だに彼の人の存在は大きなものが有った。
たくさんいる候補のなかから、彼の人はアテムを選び、彼の人の使っていた商売道具とともにその仕事を与えられたとき、それはもう栄誉有ることだった。

近代、人々は自分達を夢の異物として、その存在さえすでに商標として使われているほど、その立場は昔に比べ、『いないもの、本当は存在しないもの』として扱われてしまっていた。悲しいことにそれは子供たちにさえ知れ渡り、今や自分達を見れる子供はほんの一握り。

しかし、アテムはこの仕事を止める気など、毛頭もなかった。

一人でも信じてくれる者がいるかぎり、自分達はこの世界にいることができるのだから。

そうして、代々受け継がれてきたという、つぎはぎのしてある、ほつれてはいるが、丈夫な白い袋に夢を、子供たちそれぞれの夢を積め、オレ専用の戦闘服へと着替え、勇んでソリへと乗り込む。トナカイ達をつないだ手綱を思い切りたなびかせ、空へと飛び立った。
そう…オレの仕事というのは、サンタクロースだった。
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