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□悪い予感はよく当たる
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家を出た時から何となく嫌な予感はしていたけれど、曲がり角でばったり出会った二人組に思わず目眩がしたような気がした


「あ、なまえさん!」
「……こんにちは蘭ちゃん、園子ちゃん」
「ねぇねぇなまえさん時間ある?私たち今からポアロ行くんだけどなまえさんも行くでしょ?」


時間あるか聞いといて行くでしょって言われたら行くしか選択肢無いじゃないか

さっきの嫌な予感の正体はやはりコレだったか、まぁ丁度学校終わる時間だし、私の向かう先はポアロを通り過ぎた先にある商店街だったから行き先は同じだけど、本屋さんに行きたかっただけだから時間無い訳じゃないけど、ちょっと珈琲飲みたいなとは思ってたけど


「いらっしゃいませ」


きっと今私は死んだ魚のような目でメニューを睨み付けているんだろう、梓さんがカウンターの向こうで苦笑いしているのが何となく分かる


「なまえさんアメリカンで良かったですか?」
「あ、はいあと二人にケーキを」
「え?なまえさん良いの?」
「その代わり余計な事喋らないでね」
「ふふ、何を隠しているんでしょうかね」


ニコリと人当たりのいい笑顔を残してキッチンに入っていった背中を軽く睨み付けてテーブルの向こうでニヤニヤしてるカチューシャに視線を戻した

ここに連行されるとろくな事がない


「で、この前の人誰だったのよ」
「……だから、同級生だってば、たまたまこっち戻って来てたから話してただけだって」
「ふぅ〜ん、その割には仲良さそうだったけど」
「部活の仲間だったの、それ以上は何もありません!」
「どーだかなぁ」


別に男と喋っててもなんら不思議無いだろ!と言うかこの歳になって男っ気ないのも流石に不味い、一応自覚はしてる、してるだけで本当に何も心当たり無いんだけど

自分で言ってて悲しくなってきた…

この前は職場の人と駅まで歩いてたのを見つかってまたここに連れ込まれて根掘り葉掘り聞かれたけど、本当にこの手の話好きだね高校生


「でもなまえさん本当に彼氏とか居ないんですか?」
「居ない居ない、居たら今頃ここ来てないから」
「おや、それは寂しいですね」


珈琲と二人分のオレンジジュース、それから三人分のケーキを持って現れた褐色の手、本当に寂しいと思ってんのかなこの人


「私ケーキ頼んでませんけど」
「僕からのサービスです、なまえさんお疲れのようなので」
「……え、良いんですか?」
「ねぇなまえさん、安室さんなんてどう?」
「へ?」


いきなり何を言うんだ園子ちゃん、またどうせろくでもない事言うつもりなんだろう、おい、やめろ何のためにケーキ注文したと思ってるんだ、返してもらうぞ


「な、なんの話かな」
「だぁってさぁ、なまえさんと安室さん並んでると良い感じよ?」
「確かに!美男美女って感じで」
「いや待って待って、安室さんにも選ぶ権利が有るでしょ」


そうだ、と言うか君たち絶対面白がって言ってるだけだろ、今食べたケーキは何のために注文したと思ってるんだ


「成程、確かに僕にも選ぶ権利が有りますね」
「そ、そうですよね、そもそも安室さんなら私より良い人居るんじゃ」
「つまり、選ばれた側は受け入れる義務が有る、と考えて良いという事ですね?」
「……は、え?」


受け入れる義務、とは

視界の端で蘭ちゃんと園子ちゃんが私と安室さんの顔を交互に見ているのは分かっているし梓さんがカウンターから身を乗り出してこちらの話を聞こうと耳を大きくしているのも分かってるけど、唯一分からないのは安室さんの発言で、つまり、どういう事だ


「あ、あの、安室さんそれって」
「おっと、すいません電話が」
「え、ちょ」


ウインクを投げて寄越しながらキッチンの奥に消えていったその背中を再び睨むしか出来ずにいた


悪い予感はよく当たる


(なまえさん、僕もう上がりなんで送りますよ)
(え!いや!あの、えーと、それは)
(断る理由を探してる顔してますね)
(いや、あの、断る権利は)
(ありません)
(ひえっ)


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