DC

□未来で待ってて
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行く先々で事件が起きる、なんてそんな漫画みたいな人生ある訳ないと思ってた、思ってただけで事実は今目の前で起こったひったくりがまざまざと見せつけてくれている

またか、先週も銀行強盗真っ最中の現場の前を通りかかってしまったし暴行事件の犯人にぶつかられたのはいつの事だったか、そして今まさにひったくり犯がご近所さんの佐々木のオバチャンの鞄を抱えながら私に向かって走ってきていてまさに絶体絶命って奴だ、いや待て勘弁してくれもうこれ以上私を巻き込まないでくれ


「おい!どけそこの高校生!」
「っひ、えっ、え」


目の前から鬼の形相のでっかい男が突っ込んできて、はいすいませんと動ける訳もなく、犯人の後ろで人々が危ないだの逃げてだの必死な顔で言っているが私の足は地面に縫い付けられているかのように動かない、え、本当に動かない、どうしよう、もうすぐそこに男が迫ってきているのに、いやお前が私を避けて行けば良いだろ!?


「なまえさん!」
「っわ、え!?」


もうダメだこのまま殺されると死を覚悟して目を固く閉じたと同時に聞こえたのは聞きなれたテノールで、目を開ける間もなく私の身体は誰かに抱き締められそのまま地面に転がった


「危なかった」
「あ、安室、さん…!」
「すいません、犯人を追いますのでなまえさんはポアロで待っててください」
「え、あっ、はい、え!?」


幸か不幸かひったくりの現場はポアロの近くで、恐怖で気が付か無かったけど私が突っ立っていたのはポアロの前、お店から飛び出してきた安室さんはエプロンをほおり投げて犯人を追いかけて行った


***

「どうぞ、お代は要りませんので」
「……あの、安室さん、ありがとうございました」
「いえ、外が騒がしかったので様子を見に外へ出たら丁度なまえさんがピンチだったので」
「すいません」


無事にひったくり犯を警察に引き渡しポアロに戻って来た安室さんは未だ身体が震えている私にココアを出してくれて、口を付けると甘さが口に広がって緊張していた身体から力が抜けたような気がした


「それにしてもなまえさん、良く事件に巻き込まれてますね」
「はぁ、まぁ、私は巻き込まれるつもり無いんですけど」


確かに巻き込まれる事は多いけどその度に現れる安室さんもどうなのよ

さっき例に挙げた銀行強盗、解決して解放された人達の中に安室さんを見たし暴行事件の犯人を投げ飛ばしたのも安室さんだった、あぁそういえばコナンくんも居たな、あの子も良く事件に巻き込まれるって蘭ちゃんが言ってた

まぁでも安室さんは探偵なんだしこの辺で起きた事件現場に居ても可笑しくないか、じゃあコナンくんは何なの


「はぁ」
「落ち着きました?」
「お陰様で、ありがとうございます」
「うん、やっぱり君は笑ってる方が可愛い」
「……安室さん?」
「ずっと眉間にシワが寄ってましたから」


いや、いや待ておい安室さん今何と仰った?笑ってる方が可愛い?可愛いって言った?

いや、いや本当にそんな事思ってる訳無いだろ高校生相手に、例えお世辞でもイケメンに可愛いって言われたら嬉しいけど!


「あのー、安室さん」
「はい、なんでしょう」
「安室さんって、その」


どうしよう、これ聞いて変な風に思われたらどうしよう、けど気になる、気になるけどもしYESだったら私立ち直れ無いかもしれない


「か、彼女って、居るんですか…?」
「…………」


うわー!安室さん黙っちゃったじゃん!え!?何か不味いこと言った!?禁句だったかな、え、どうしよう、とりあえずココア飲んで誤魔化そう


「居ます」
「ぅぐっ」


自分から聞いておいてまさかの返答にココアを吹き出しそうになったのを寸でのところで耐え切った、けど私は安室さんに何て言って欲しかったんだよ


「って言ったらどうします?」
「……え?それどういう意味?」
「じゃあ僕からも質問」
「ぅえ、は、はい!」
「なまえさん、今好きな人居ます?」


私の、好きな人、安室さんそれ聞いてどうするの

返答に困って黙ったままの私を見つめる安室さんは相変わらず笑顔、これは答えるまで帰れないのでは?けど好きな人、言っちゃったらどうなるんだろ、怖いけど、どんな反応するのか、見たい


「好きな人、好きな人は、」


いざ、勇気を振り絞って口に出そうとした瞬間、カラン、とドアに取り付けられた来客を知らせるベルが鳴った


「やあ、いらっしゃいコナンくん」
「あれ、なまえねぇちゃん」
「……こんにちは、コナンくん」
「さっきひったくりの犯人にぶつかられそうになったんでしょ?大丈夫?」
「あぁ、うん、もう大丈夫」


タイミングが良いのか悪いのか、結局安室さんは私の隣に座ったコナンくんと話し始めてしまった

なんだよ、私の勇気返してくれよ


「……そろそろ、帰ります」
「おや、もうお帰りですか、お気を付けて」
「なまえねぇちゃんまたね」
「うん、またねコナンくん」


笑顔で手を振るコナンくんに自分も返しながら安室さんが開けてくれているドアを出ようとすると肩をトントンと指で叩かれ、指の主は少し屈んで私に視線を合わせてこう宣った


未来で待ってて
「っ、あ、安室さん!?」
「では、また」
「あ」


再びカラン、とベルを鳴らして閉まったドア、今度そのドアを開く時私はどんな顔をしたらいいのやら


未来で待ってて


(……こんにちは)
(おや、なまえさんいらっしゃい)
(あ、あの)
(カウンターへどうぞ、ココア、お入れしますので)
(……)



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