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□安室透に愛され過ぎて困ってます
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「なまえさん、僕とデートしませんか?」
「…………は?」


白昼堂々、いやもう昼過ぎで客はカウンターの真ん中を陣取る私と窓側にお爺さんが一人だけだがこの目の前の色男はなんと言ったか

デートってお前、どの口が言ってるんだ…

今自分がどの立ち位置なのか分かって言っているのか、まぁ大方何か裏があってのこの発言なんだろう、断る理由はあれどOKする理由も無いしメリットも無い


「お断りします」
「相変わらず冷たくていらっしゃる」
「好きでもない相手にそういう事言うのやめた方が良いですよ」
「おや、本心なんですけどね」


カウンターに両肘をつきながら胡散臭い笑顔を上手に貼り付けていけしゃあしゃあと言ってのけたその口を縫い付けてやりたい

そもそもこの人が私に好きだとかデートだとか言ってくる理由が分からない

安室さんが降谷さんでバーボンだって事も知ってるのに今更“ポアロの安室さん”として私に接してくるのは何故なのか


「とりあえずお腹空いたんでメニュー下さい」
「因みに今日のおすすめは僕です」
「あぁ大丈夫です要りません」
「テイクアウトのみになりますがいかがですか?」
「こいつ人の話聞いてねぇな」


毎度の事だけどこの人は本当に私の事が好きなフリをしている、テイクアウトのくだりは過去に三回やり取りしているしいい加減飽きねぇのかよと少しばかりの怒りを込めてにっこり笑って差し出されたメニューをふんだくってやった


「……見すぎ」
「メニューを選んでいるなまえさんも大変可愛らしい」
「仕事しろよ」
「なまえさんからの注文が入るまで暇なのでどうぞゆっくり選んでください」
「ハムサンドと珈琲ホットで」
「はい、すぐお作りしますね」


ほんとなんなんだこの人は

大体安室さんに好かれる要素が私に有るとは思えないしきっかけもないと思うんだけどやっぱり何か企んでるのかな

サイフォンで珈琲を淹れながらハムサンドを器用に作る姿はどこからどう見ても喫茶店の店員さんにしか見えないし、自惚れでは無いと思うけど私のハムサンドを作る時はいつもより少し楽しそうに見える


「そんなに見詰められると手元が狂ってしまいそうですね」
「……え?」
「そんなに僕の作るハムサンドが恋しいですか?」
「うわー、やだ無意識だった」
「ふふ、無意識で見詰めてくれているなんてなまえさんやっぱり僕の事好きですよね」
「好きだよ、ハムサンド」


勿論好きだよハムサンド、ハムサンドに罪は無い

慣れた手つきであっという間に完成したハムサンドと、見計らったように丁度淹れ終わった珈琲が差し出され、同時に感じる痛い程の視線に安室さんを睨んでやろうと顔を上げれば何とも言い難い、悲しそうにも辛そうにも、笑っているようにも見える表情をしていて、褐色の手が私の左手を掴んでいる事に全く気が付かなかった


「……え?安室さん、何」
「いえ、何も、どうぞごゆっくり」
「あ、はい、いただきます」


何なのだ、安室透、いや降谷零

ハムサンドを食べ終え少し冷めた珈琲を胃袋に流し込んで会計をするべくレジに向かうとまたあの人当たりの良さそうな笑みを浮かべた安室さんが何か言いたげに私を見詰めていた


「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした、なまえさん次来る時は僕に連絡ください」
「え?あぁ、はい、分かりました…?」
「ではまた、お待ちしております」


何故安室さんに連絡しなきゃいけないのかは分からんけどきっとまた碌でもない事考えているんだろう、たまにはご希望に応えてやろうじゃないか

ひらひらと手を振って私を見送るトリプルフェイスに手を振り返して少し歩いた所で先程握られた左手に違和感を感じて顔の高さに上げると薬指に見覚えの無いシルバーのリングがはめられていた


「えっ、何だこれ」


彼の言う私への“好き”は果たして本物なのか、真相を確かめるべく一応メッセージを送ってポアロに向かうとカウンターど真ん中、私の特等席の椅子の上には一輪のピンクのマーガレットが置かれていた



安室透に愛され過ぎて困ってます


(これ、何なんですか)
(虫除けです)
(むし、よ、いや、はぁ…)
(てっきりもう外されてると思ってましたけど案外律儀なんですねなまえさん)
(今すぐ外してやろうか)


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