DC

□おやすみ、また明日
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アパートの前まで来てそういえば連絡を入れていなかったなと思い出した

ドアの前で少し考えたがとりあえず早く顔が見たい気持ちが勝って指は自然とインターホンに伸びているんだから案外自分も単純な奴だな

ピンポン、と少し安っぽいチャイムの音の後にドアの向こうからはーいと言う声と共にガタンと大きな音がした


「……暴れてるのか?」


直後キーの外れる音がして家主が開ける前にドアを開けてやると大きな目をぱちくりと瞬かせる愛しい人の姿が見えた


「いってぇ、……安室さん?」
「何を暴れてたんだ?」
「暴れてないです!ちょっと足ぶつけただけです!降谷さんだったし!」


別にそれは胸を張って言う事ではないがどこか誇らしげに言っているようにも見えるのは気のせいだろうか


「突然来るなんて珍しいですね、何か急用ですか?」
「あぁそうだ急用も急用、今すぐだ」
「あ、ちょっ、降谷さ、わっ」


何か言いたげななまえを所謂お姫様抱っこの形で抱き上げるとバカだのアホだの語彙力の無い悪口を言っているがただ可愛いだけなのをこの人は分かっているんだろうか


「ちょっ、か、鍵!鍵かけてない!」
「俺がかけた」
「うっ、お、降ろして!」
「勿論降ろすさ、ベッドにな」
「……え」


つい今まで腕の中でぎゃあぎゃあ言っていたのに寝室に近付くにつれて借りてきた猫のように大人しくなったが最初からそうしててくれ、いや抵抗するのも可愛いが


「あ、あの、降谷さん?」
「ん?」
「……もしかして、また徹夜したんですか?」
「またってなんだ」
「いや、だって、隈」


そっとベッドに降ろしてやると眉間に皺を寄せて俺の目の下を撫でてきたなまえの指は少し冷たい

確かに最近寝ていない様な気もするが人間の欲求というのはどうにも正直で、食欲より、睡眠欲よりも今はもう一つの欲求が勝っていて、今にも文句の一つでも飛び出してきそうな唇を塞いでやろうと顔を近づけると、それを阻止するかのように少し温度の上がった掌を俺の口元に押し付けてきた


「んん」
「降谷さん、寝てください」
「ふんんふ」
「何言ってるか分かんない」
「っ、なんだって?」
「寝てください!えいっ!」


余りにも真面目な顔で言うもんだからつい、俺とした事が、ネクタイを引っ張られ気が付けば視界には天井と頬を膨らませたなまえの顔、あぁ、これは結構怒ってるな


「ふふっ」
「……何笑っ、て!?」
「ならなまえも一緒に寝よう」
「え?私も?いやでも明日の準備」
「朝食なら俺が作る」
「え、降谷さんのごはん…、あ、いやそうじゃなくて!」


腕の中に引っ張り込んで毛布で包んでやってもまだ何か文句をブツブツ言っているおしゃべりな口を今度こそ塞いでみれば面白い程大人しくなった

仕事は一区切り付けてきたし、まぁたまにはこういうのも良いか


おやすみ、また明日


(シャツ、皺になっちゃう)
(新しいの車に置いてきた)
(コーヒー、インスタントしかない)
(俺が淹れるんだ、きっと美味しい)


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