DC

□アイラブユー!
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店内に響くのは梓さんが洗う食器の音と自分がフルーツの皮を剥く音だけ、時計に目をやればランチタイムはとっくに過ぎていてもうそんな時間か、と無意識に出た溜め息と同時にカランとドアベルが来客を知らせた


「いらっしゃいませ」
「……こんにちは」
「カウンターどうぞ」


にっこりと外行きの笑顔と共にカウンター席に座るように促すと一瞬だけ寄越された視線は直ぐに逸らされた、うーん、参ったな


「あ、なまえちゃんいらっしゃい!」
「へへ、こんにちは、アイスコーヒー下さい」


洗い物を終えた梓さんがカウンターに顔を出した途端、決して僕には向けられないであろう笑顔

負けた気がして悔しいだなんてそんな子供じみた事は考えてもいないがこうもあからさまに態度を変えられるのも面白くない、そもそも彼女は男性が苦手なのかもしれないがそれにしても少し顕著過ぎるのではないか?


「なまえさん、フルーツサンドいかがですか?」
「フルーツサンド……?メニューにありましたっけ」
「今日だけ特別、マスターが頂き物のフルーツを使っていいと仰ったので」
「……じゃあ、お願いします」


畏まりました、とにっこり笑いかけるも直ぐに目を逸らされてしまったしなんなら話している間もあまりこちらを見てはくれていなかったようにも感じた


***

「じゃあなまえちゃん今度一緒に買い物行こうよ」
「え、ほんと!?梓さんとお出かけしてみたかったから嬉しい!」
「えー!なにそれ私も嬉しい!」


その後ポツリポツリと来客はあるものの生憎カウンター席を選ぶ人はおらず、なまえさんのお相手は梓さんに任せていたが歳も近いせいか話が弾んでいるようだ

やはり僕と話す時とは違う顔をする、別に悔しいとかそんな事は思っていないが、少しくらい分けてくれても良いんじゃないかだなんて思ってはいないが


「じゃあ梓さん、また後で連絡するから」
「うん、楽しみにしてるね!ごめんなさい安室さん、なまえちゃんのお会計お願い」
「ん、了解です」


レジを挟んで向こうの彼女はなんだか意図的に視線を外しているように見えるがこれも僕の思い過ごしだろうか

お釣りを渡して財布を鞄に仕舞うのを他所向きの笑顔を貼り付けて見守っているとほんの少しだけ視線を上げて直ぐに逸らされた、やはり嫌われているんだろうか、いやしかし彼女とはいつも一言二言しか会話はしないし、明らかに壁があるようにしか見えないから必要以上パーソナルスペースは侵さないようにしていたんだから嫌われる要因なんて


「……また来ます、ご馳走様でした」
「はい、またお待ちしています」


カラン、と来店時と同じ音を響かせて彼女は店を後にした


「安室さんってば相変わらずですね」
「……なんの事で?」
「またまたー、しらばっくれちゃって!モテる男は違いますね!」
「いや本当に、なんの事やら」
「え?だってなまえちゃん、安室さんの事、あ、あっ!やっぱり何にもないです!」


時すでに遅し、口から出た言葉を取り返す事は出来ない、成程道理で


「梓さんすいません、ちょっと抜けます」
「え?あっ、ちょ、安室さん!?」
「すぐ戻ります」


気が付けばエプロンも取らずに足は店の外へと向いていて、その可能性はゼロじゃないと信じて彼女の元へと急いだ


アイラブユー!


(なまえさん!)
(っ、あっ、安室さ、わっ、え!?)
(僕もなまえさんが好きです)
(わ、え、え!?ちょ、とりあえず離してください!)
(もう少し抱き締めさせて)
(…………)



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