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□財前と桜
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ひらひら、ピンク色の花びらが目の前を通り過ぎた

あぁ、もう春なのか、そりゃ桜も咲くわな

公園に植えられた桜の木のほとんどは花が咲き始め春の陽気を纏った風が枝を揺らしている


「……アイツ」


桜を見上げて写真を撮っているクラスメイトの後ろ姿を見付けた

あっちを向いたりこっちを向いたり、つま先立ちでふらふらしながら写真を撮る彼女は今にも転んでしまいそうだ


「よっ」
「ひゃ、わっ、えっ何!?」
「自分何してんねんこんな所で」
「あ、ざ、財前くん!?えっと」
「腕伸ばしたって届けへんやろ、手伝ったるわ」


周りに人がいるだなんて思ってもいなかったのか予想以上に驚く彼女に思わず笑みが漏れた


「ちょ、ね、下ろして!」
「上の方まで腕届かんやろ」
「そういう問題じゃなくて!」


あんまり一生懸命に写真を撮っていたから何か手助け出来ないかと、腰を両腕で掴んで持ち上げると頭の上の方からわーとかきゃーとか言っているのが聞こえる

なんやめっちゃおもろいねんけど


「ほれ、はよ撮りや」
「じゃあ降ろして」
「上の方が花いっぱい付いとるやんか」
「上じゃなくて良いから!人来たらどうすんの!」


あまりにも焦るのを見ているとジワジワと加虐心がせり上がってくるもので、細い腰を捕まえたままに逆方向へ足を進めた


「え!?ね、ねぇ!財前くんどこ行くの、お、降ろしてってば!」
「俺もっと桜咲いてるとこ知ってんねん、連れてったるわ」
「いや行くからとりあえず降ろして!」


申し訳ないくらいに顔を真っ赤にさせて狼狽える彼女の意見を他所に、目的の場所まで歩みを進めてた

コイツ思ったよりちっこいんやな、細いし、軽いし、トレーニングにもなれへんわ

腕に抱かれたままわーわー言う彼女の意見は無視して辿り着いたのは小さな川に架かる橋の上

水面に早々と散っていった桜の花びらがぽつぽつと浮かんでいる


「ほれ、ええやろここ、平日誰もおらんからオススメやで」
「財前くんやっぱり力持ちなんだね」
「いや無視かい」
「あっ、いや、ありがとう!凄いね、川に桜が咲いてるみたい」


さっきまであんなに文句を言ってたのに、今はまた携帯を片手にきょろきょろと辺りを見回している

……なんやおもろないわ


「自分春休みこれから予定詰まっとる?」
「んー、いや、…特に何も、無いけど」
「……明後日デートせえへん」
「うーん、明後日、あっ、え!?何!?」
「やっとこち向いた」


桜に夢中になってこちらを見ようともしない彼女に少しばかり苛立ちを覚え、橋の手すりに顔を半分伏せながら問いかけると案の定ちゃんと聞いてはいなかったようだ、頭の上に!と?がいくつも浮かんでいる


「どこがええかなぁ、自分動物平気やろ、ふれあいパークでも行こか」
「ま、待って待って、財前くん、明後日なんて言った?」
「聞いてへんかったんか、デートしよ、言うたんやけど」


ほんま見てて飽きひんわ、頭に花びら付いとるし


「で、デート、私と」
「おん」
「財前くんが」
「せや」
「ふれあいパーク」
「うさぎとか色々おんねんて」


謙也さんが行こう言うとったけど何が悲しくて男同士でふれあいパーク行かなあかんねん、折角なら好きな子と一緒に行きたいに決まっとるやろ


「時間とか決めなあかんな、連絡先教えて」
「えっ、あっ、はい」
「あと桜の写真、後で送って」


ほなまた、と言って別れた帰り道、携帯が震えて知らせた画面には変な猫のスタンプとさっき一生懸命撮っていた桜の写真が送られてきた


「ふっ、スタンプのセンス無さ過ぎやろ」


(財前くん見て!可愛い!うさぎ!)
(自分のほうが可愛ええけど)
(……な、何をおっしゃいますの)
(本心なんやけど)


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