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□安室さんと七夕
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「あ」


夜空を見上げると一筋の流れ星が通り過ぎた

流れ終わる前に三回願い事をすると叶うとよく言うがもしそれが本当だとしてあの短い間に言えた人は過去にどれ程居たのだろうか


「身体が冷えますよ」
「安室さんは何か願い事ありますか?」
「また唐突な質問ですね」
「今流れ星見たんです」


背後から現れた安室さんはいつもの様に半分呆れたような顔で私の頭にタオルケットを被せながら優しく抱き締めてくれた

何だかんだ言ってこの人は私に甘い、きっと今テーブルの上には手作りのおつまみとワインが用意されているはずだ


「まぁ強いて言うなら早くワインが飲みたいかな」
「うわめちゃくちゃ嫌味言われてる」
「朝まで飲もうと言ったのは貴女でしょう」


くるりと身体を反転させられ半ば強引にソファーへと誘導された

案の定テーブルには美味しそうなお料理と私が前に好きだと言った白ワイン、昼間買い物に行った時にサービスで貰ったお花が一輪挿しの花瓶に生けられていて準備万端


「流れ星には何をお願いしたんですか?」
「内緒」
「大方想像つきますが」
「私が単純だって言いたいんですか」
「まぁまぁ、はい、乾杯」


私の右手に勝手にグラスを持たせ一方的に乾杯してきたこの人は時々私の事をお子様扱いする、幾つも歳が離れてる訳でも無いのに

どう足掻いたって安室さんに勝てる事なんか一つもないのは分かっているけどこうも良いように転がされているだけなのは流石に良い気分では無いがワインが美味しいから今日の所は許してあげよう


「願い事で思い出しましたけどもうすぐ七夕ですね」
「……七夕になると学校とか商店街とかで短冊書いて吊るすじゃないですか、安室さんは何を書いてました?」
「質問する前にまずはご自分から言うのが筋ではないかと」
「いや私のはなんの面白味も無かったんで、酒のつまみにもなりませんよ」
「そう言われると余計に気になりますね」


薄く笑った色男がカツン、とワイングラスをテーブルに置くと空いた右手が私の後頭部に回された

あ、やばい、これは逃げられないやつ


「小さい頃の貴女は一体何をお願いしたんですか?」
「いや、だからそんなに面白くないから」
「聞いてみない事にはなんとも」
「えぇ、や、分かった!言うんで手離してください!」
「離したら逃げるでしょう」


まぁ仰る通りなんですけど、逃げられないの分かっててやってるでしょ安室さん

兎に角誤魔化す為に一口飲もうと思ったワイングラスを持った右手はあっさり奪われついでに唇も奪われた


「っ、そんなに聞きたいなら教えますけど」
「えぇ、是非」
「…………可愛いお嫁さんになりたい、って」
「叶えましょう」
「な、ん…?」


いつの間にか肩に引っかかっていたタオルケットがもう一度頭に掛けられ、捕らわれた私の左手に優しくキスをした安室さんの“叶えましょう”の意味を今やっと理解した


「僕の願い事、教えましょうか」
「……是非」
「可愛いお嫁さんと一緒にワインを飲める日が来ますように」
「ふっ、ふふ、なにそれ」


何年後になるかは分からないけど、タオルケットなんかじゃなくて真っ白なレースを身に纏う日が来ますようにと、再び流れた星に願いを掛けた


(きっと似合いますよ、ドレス)
(やっぱり安室さんには勝てないなぁ)
(明日は指輪見に行きましょう)


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