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□安室さんと冬の日
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「…………」
「お疲れ様です」
「お疲れ様、です」


裏口のドアを少しだけ開けて外を覗くと雪がちらほら降り始めていて、きっとさぞかし寒いんだろうとマフラーに顔を半分埋め意を決して外へ出るとやはり寒かった

路地を抜けて表通りに出るとお店の前に見覚えのある人物が寒そうに腕を組んでいるのを見付けた

こっちにはまだ気が付いていないようだし、帰り道は本来彼の居る方向だが遠回りをしようかと一歩後退るとジャリと砂を踏む音で気が付かれてしまった、めっちゃ良い笑顔


「逃げなくても」
「別に逃げてないです」
「反対方向行こうとしましたよね」
「普通にバレてる」


気付かれてしまっては仕方がないしこれ以上逃げてもきっと追いかけられるはずだけど、あまり安室さんには会いたくなかった


「なんだか最近避けられているような気がするんですが」
「あー、いや、あの、そんなつもりでは」
「分かってますよ、僕の顔見れないって」
「…………」


確かに、見れない

結局安室さんから貰ったあの服はクローゼットに仕舞ったまま、なんとなく気まずくてポアロにも行けていないし、そもそもなんで私なんだろう、安室さんくらいの人なら私みたいはガキよりもっと大人で美人で綺麗な女性のほうがお似合いなのに

と言うか分かっててここに来る安室さんって実は結構意地悪な人なんだろうか


「正直今日はここに来るか迷ったんです」
「……安室さんが?」
「僕の事なんだと思ってるんですか」
「いやだって、安室さんが迷うなんて」


私の中の勝手なイメージだけど安室さんは自信に溢れていて信念を貫く、正義感の強い人、あと雪降ってるのに平気な顔して外に立っていられる強靭な精神力を持ってる


「……あの、安室さん」
「はい、なんでしょう」
「とりあえず寒いんで、うち来ませんか」
「それはどういう意味で」
「コーヒーでも飲んで暖まろうって意味です!」


どうもこうもそのままの意味ですけど、寒いんで、こんな雪の降る中待っててくれたんだしこれ以上身体が冷えちゃ良くはないでしょうに

本来の進行方向である安室さんの方に足を踏み出そうとするとあの褐色の手が差し出された、その指先は寒さから少しだけ赤いような気がする

差し出された手の意味が読み取れず何かと聞こうとしたと同時にその手は私の右手を握りしめた


「さ、行きましょう、こんなに手が冷たい」
「安室さんの手も充分冷たいですよ」
「なら尚更、早く温めないと」
「私は平気です、だって安室さんマフラーもしてな、い、……て言うか、これ安室さんのマフラー、だし」
「暖かいでしょう、僕のお気に入りなんです」


返すタイミングを完全に失ったまま、自分のマフラーは以前電車に忘れてしまってこれしか防寒具が無く致し方なく、いつ会えるかも分からなかったから致し方なく、身に付けていたのにすっかり自分の物のようにしてしまっていた

そんな事をすっかり忘れ持ち主の前で堂々と装着している辺り自分の低脳さを思い知った、そりゃ寒い訳ですよ、安室さん


「す、すいません、ちゃんと洗って返します」
「いえ、それは貴女に差し上げたんです」
「え?でもお気に入りだって」
「ええ、なので身体を温めたら新しいのを買いに行きましょう、選んで頂けますか?貴女のお気に入りを」


そう言って私の手を引いて歩き出した安室さんは少しだけ私より前を歩いた、いつもならすぐ隣を歩いてくれるのに、まぁでもきっと私の顔は真っ赤なんだろうし丁度いいかな



(結局こんな時間になっちゃいましたね)
(だってそれは安室さんが)
(煽ったのは貴女ですよ)
(……明日私お休みなんです)
(知ってます)
(確信犯か!)


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