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□君が好き
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とある昼休み、美化委員の用事を先生に頼まれた帰り、同じく美化委員のみょうじさんとお友だちが前を歩いているのが目に入った

彼女らがたまにこっちをチラチラ見ているが、もしかして俺の事見てるのかな、みょうじさんのお友だちと目が合ってしまった


「ほらなまえの大好きな幸村先輩だぞ」


あの子に耳打ちするように言ってるが、多分聞こえてないと思ってるんだろうけどばっちり聞こえてしまった

なるほど、なるほどね、そんな事聞いてしまったら真実を確かめるしかなくなってしまうな

あぁいけないつい顔が緩んでしまう
二人が前を向いた隙にそっと近づいた


「あのさぁ、近くに本人いるんだからそーいう事言わないでよ」
「へぇ、大好きなんだ」
「あ、噂をすればなんとやら」
「…え、え?え?」
「みょうじさんが俺の事を、なんだって?」
「あ、や、あの、いや、えと、その、ご、ごめんなさい!」


言うなり彼女は文字通り脱兎の如く俺の横を走り去った


「ちょっと、みょうじさん待って!」
「ごめんなさい待てません!!」
「いやちょっと詳しく、って足速いな!」


瞬く間に廊下の角に消えていった彼女を堪らず追いかけたが思いの外逃げ足が早く思わず必死にその背中を追った

まさかのご本人登場に逃げ出すという事はあのお友だちさんのいう事は真実なのかもしれないと、密かに期待している自分に内心笑ってしまった


「…みょうじさん、帰宅部じゃなかったっけ?」


しかし本当逃げ足の速いこと速いこと、大分油断していたためにあっという間に距離が開いてしまった

参ったな、逃げられると追いかけたくなるじゃないか

まぁ彼女の行き先は見当がついている



***

「はぁぁぁ絶対幸村先輩気付いたよもーほんとばか…」
「いたいた、みーつけた」
「ぎゃー!幸村、先輩!」
「ぎゃーって、人を化け物みたいに…」



辿り着いたのは美術準備室

俺が授業で描いた絵がなぜか飾られていて、彼女が時たまその絵を見ているのは前から知っていた、と言っても柳が教えてくれたんだけど

それにこの教室からはテニスコートが見える

ここからみょうじさんがいつも部活見てるのは分かってた

だって俺も、テニスコートから彼女の事を見てたから


「わ、私用事がありますので、失礼します!」
「こらこら逃げなくたっていいじゃないか」
「ぅ、あ、あの、ごめんなさい、その、えと、」
「ちょっと詳しく聞かせてもらえるかな、さっきの」
「えーと、さっきのと言いますと…?」


見るなりまた逃げ出そうとする彼女の腕を掴んで壁際に追い詰めると、みるみる顔を真っ赤にして俯いた

これで俺の中では確信に変わったが本人の口から聞かない事には前には進めない

と言うか、ぜひみょうじさんの口から聞きたい、言わせたい


「みょうじさん好きな人、いるの?」
「あの、この状況でよく笑顔でそんな事聞けますね」
「だってこうしてないとみょうじさんまた逃げちゃうだろ」
「逃げないんで離してください」
「別に逃げても良いけどね、逃がさないから」


今度は真っ青な顔になってなんだか見てて飽きないな、まぁそうさせてるのは他でもない自分なんだが

いじめ甲斐があるというか、コロコロ表情が変わってどんな顔してても可愛いんだけど、もっといろんな表情が見てみたい


「先輩、部活行かなくていいんですか」
「質問の答えが返ってきてないからね」
「…話聞いてたんですよね?なら」
「でも俺はみょうじさんの口から聞きたいな」
「すっごい良い笑顔…」
「大丈夫、俺しか聞いてないから」
「それが大丈夫じゃないんですけどね!」
「分かった!俺も言う、そしたら答えてくれるだろ?」


見てて飽きないけどそろそろ本当に部活行かないと真田に怒鳴られそうだな


「…えと、私の、好きな人は、優しくて、みんなから好かれてて、誰よりもキラキラしてて、あと、いつも、ここから見えてて、それから」
「…それから?」
「今、私の目の前に居て、笑顔が素敵な人、です」
「うん、そっか、分かった、じゃあ俺の好きな人は」


君が好き


(て事で今日は一緒に帰ろう)
(いきなりですね)
(早くなまえと手繋ぎたいし)
(…………ずるい)


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