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□愛しの君へ
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日曜日、折角の休みだけど忘れ物を思い出したから取りに行くついでに少し体を動かそうと部室に行くと、扉の向こうから声が聞こえた
こんな天気の良い日曜日に学校に来るのは自分くらいで周りに他の生徒は見当たらなかった

はて、部室からはうーとかあーとか、唸り声のようななんとも言えない声が聞こえているが、恐らくこれは彼女だろうな
そもそも部室の鍵を持っているのは俺かマネージャーくらいだし
驚かすつもりは無いが何か考え事してるみたいだし、気付かれないように近付こう、驚かすつもりは無い、本当に無い、本人が驚くかは別の話だけど

「あー、どうしよ、んー…」
「お困りかな、マネージャーさん」
「っわ、はい!?あ、ぶ、部長…?あれ、今日お休みですよね」
「うん、ちょっと忘れ物しちゃってね、ついでに体動かそうかと思って来たんだけど、なまえは勉強かな?」
「あぁ、まぁ、そんなとこです」
「ふぅん、その割にはノート真っ白だね」
「ぅ、えへへ…」

部室に居たのはマネージャーのなまえ
仕事熱心な子だとは思ってたけどまさか休日出勤までするとは、これは将来有望、いやそうじゃなくて
勉強という割に開かれたノートは真っ白
教科書も参考書も置いてないけど、一体なんの勉強なんだろうか


「幸村部長が忘れ物なんて珍しいですね」
「俺だって人間だからね」
「なんかちょっと安心しました」
「え?まさか俺の事本気で神の子だとでも思ってた?」
「ふふっ、違いますって、幸村部長って完璧で隙のないイメージだったからつい」

いつもニコニコと嫌な顔一つせず毎日マネージャー業をこなしてくれる彼女に惹かれるのにそう時間は要らなかった
だけど、彼女にとっては部長とマネージャーでしかない訳で、しかも学年も違ってて、気持ちを伝えるなんて事はとっくに諦めていたのに、こうして二人になるとやはり意識してしまうもので

「………」
「……あの、部長?」
「ん?何?」
「そんなに見られるとちょっと恥ずかしいんですけど」
「ん、ごめんつい、なまえ全然手動いてないから」
「部長身体動かしに来たんですよね?」
「そのつもりだったけどなまえ見てるほうが面白そうだからやめた」
「えぇ、ひどいなぁ」
「……」
「っあ、部長?」

真面目な顔でノートと向き合ってたのに、今度は困ったように笑う彼女に、もっと色んな顔が見てみたいと、ついいじめたくなって、無意識に頬に触れていた
思ってたより柔らかくて小さくて、あぁ、だめだ、止めておけば良かった


「な、なんですか、突然」
「なまえ、俺に触られて嫌じゃない?」
「別に、嫌では、ないですけど、あの、どうかしたんですか…?」
「じゃあこれは?」
「わっ、幸村部長!」


どうしたんだろう一体
自分でも不思議なくらい彼女に触れたくなって、つい腕の中に引っ張り込んでしまった
火が出そうなほど顔を真っ赤にしてどうにか離れようともがく彼女をぎゅっと抱きしめた
見た目よりずっと華奢で、こんな小さな身体で俺たち部員の為に毎日走り回ってくれて、まずいな、離してやれそうにない


「ぁあの、あの!幸村部長!は、離してください」
「ごめん、もうちょっとこうしててくれないかな」
「っでも、誰か来たら、勘違いされちゃう」
「良いよ、俺はそのほうが都合が良い」
「…部長?ちょっと意味が」
「俺ね、なまえが好きなんだ」
「…………部長冗談が過ぎますよ」
「俺が冗談でこんな事言うと思う?」

とうとう言ってしまった
もう少しムードとかなんかなかったのか精市
俺の決死の告白に腕の中の彼女は黙り込んでしまった
あー、どうしよう、もしこれでなまえは他の人が好きだったら
彼女の事だから何事もなかったようにマネージャーしてくれるんだろうけど、柳や仁王なら気がつくだろうな


「あの、部長、ごめんなさい、離してください」
「うん、ごめん、好きでもない男にこんな事されても困るよね」
「…本当に、困ります、折角今までずっと我慢してたのに」
「え、なまえそれどういう「幸村部長が、ずっとずっと前から、好きで、テニスしてる部長の背中ずっと見てて、っごめんなさい、ほんと、離してっ、ください」
「待ってなまえ、顔上げて」
「無理です、今きっと、っ酷い顔してる」
「良いよ、なまえのどんな顔でも好きだから」
「っや、部長!」


無理矢理上を向かせた彼女の顔は、涙で濡れていて、これは俺が泣かせた事になるのかな
だけど綺麗な涙を流す彼女が愛おしくて、心底惚れているんだなと改めて実感した
あぁどうしてくれようか、この小さい頑張り屋さんを

「部長、ごめんなさい」
「謝るのは俺のほうだ、ごめん、なまえが好き、本当に」
「どうしよう、私夢見てるみたい」
「じゃあ夢見てるついでにキスして良い?」
「なんでそうな、る、んっ、」
「っふ、涙止まったね」
「泣かせたの部長じゃないですか」
「所で結局ノートに何書くつもりだったの?」
「え?今それ聞きます?」
「なんかなまえ抱き心地良いからリラックスしちゃって」
「抱き枕じゃないんですけど…」


まだ少し赤い顔でまつげを濡らしたまま俺の腕に抱かれるなまえはそれこそ抱き枕みたいだ
この可愛い生き物どうしてくれようかな、離すタイミングを逃してしまった
だめだこのままだと家に帰すのも惜しくなってしまう
名残惜しいがそっと身体を離すと少し寂しそうな顔をされてしまった

「なまえそんな寂しそうな顔するとまたキスしちゃいそう」
「…今日はもう勘弁してください、キャパオーバーです」
「分かった、今日はやめとく、俺も色々抑えられなくなりそうだし」
「なんの事ですか…?」
「あぁ、気にしないで、ほら質問の答え、勉強って訳じゃなかったみたいだけど」
「あ、あぁー…えと、幸村部長の、誕生日プレゼント考えてたんです、けど、全然浮かばなくて、部室なら思い浮かぶかと思って」
「…なるほど、そっか、えーと、うん、ありがとう」
「この際なんで直接本人に聞きますね!何が良いですか!」
「うーん、俺としてはもう貰ったと思ってるんだけどな」
「え?私まだ何も」
「今日からなまえが俺の彼女になってくれる事と、キス、それでもう充分幸せ」
「っ、なんっ、でそういう事恥ずかしげも無く言えるんですか…」
「思った事言っただけなんだけどな」


嘘は良くないからね
でも本当にそれだけで充分なくらい今、すごく満たされている
林檎みたいな真っ赤な顔も、上目遣いに見つめる眼も、あったかくて小さい手も、艶のある長い髪も、全部が愛おしい


「分かった、じゃあ来週デートしようか」
「え、突然ですね」
「そりゃそうだよ、制服以外の##NAME12#も見てみたいし」
「うわ、ハードル上がっちゃった、部長の隣歩くのに恥ずかしくない格好しなきゃですね」
「大丈夫、どんななまえでも絶対可愛いから、俺が保証する」
「その自信どっから湧いてくるんでしょうか…」
「それと、名前で呼んで欲しい」
「………それは、また今度でも良いですか」
「んー、ハグしてくれるなら」
「えぇ!うー…、せ、精市、部長…」
「よーし何時間耐えられるかやってみようか」
「ごめんなさい精市くん!」
「よく出来ました」

愛しの君へ

(来週まで待てないかも、今からデートする?)
(心の準備に一週間ください…)

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