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□今日もアナタに恋をする
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「ねぇ」
「んー…」
「ねぇ」
「あー、んー」
「ねぇってば!マネージャー!」
「わっ!はい!何!?」
「ねぇ、日曜日俺と出かけてくれない?」
「……私が、越前くんと?」
「なまえ先輩が、俺と」

部活終わり、部誌の記入に集中していると可愛い可愛い後輩から、デートのお誘いをされた
越前くんは本当に可愛い後輩で、唯一文句を付けるなら先輩にタメ口きくのやめなさいって事くらい


* * *

「なぁんだ、越前くんここ来たかったのか」
「…なんか文句ある訳?」
「んふふ、ぜーんぜん、まさか越前くんとデート出来るなんて思ってもみなかった」
「デートって、まぁいっか、それでも」
「でもなんでパンケーキのお店なんか来たかったの?」
「クラスの女子が美味しいって言ってたから日本のパンケーキってどんなもんかと思ったのと、男だけだと入りにくいから」


あのクールな越前リョーマがまさかパンケーキ食べたいだなんて可愛い事言うんだなって事にも感動したけど、ちゃんと女の子とお話するのかという事に更に感動した
テニスしてる時とは違う雰囲気の、美味しそうにパンケーキを頬張る越前くんは年相応に見える

「美味しそうに食べるね、越前くん」

あぁ、口の端にクリーム着いてるし
越前くんの口の端に鎮座ましましているソイツを指ですくって自分の口に運んだ

「っ、な、んで今」
「へ?あっ、ごめん!つい!」
「…ごちそうさま」

しまった、本当に無意識だった
ちょっと顔の赤くなった越前くんに少し睨まれたけど全然怖くないんだよなぁ
でも私じゃなくてもそのクラスの女の子とか、桜乃ちゃんとか誘えば良かったのに
パステルカラーで整えられた可愛い雰囲気の店内に男だけで入るのはそりゃあ勇気いるよなぁ
あのレギュラー陣がもし来ようものなら注目の的だろうし


「ねぇなまえ先輩、この後まだ時間ある?」
「うん、予定ないけど、どうかした?」
「もうちょっと付き合ってよ、デート」
「お安い御用だわ、どこ行きたいの?」
「先輩の行きたい所」
「へ、私の?越前くんの行きたい所で良いよ?」
「なまえ先輩の行きたい所が俺の行きたい所」
「やだ越前くん男前…」
「ねぇ馬鹿にしてんの?ほら、早く行こう」


私の手を引いて歩き出した越前くんはなんだか部活してる時くらいに楽しそうな顔してる
一年生といってもやっぱり男の子なんだと、繋がれた大きな左手から実感した

でも良いのかな、折角のお休みなのにマネージャーなんかと、しかも女子と出かけるなんて
私としては都合が良いのだけど

今日のデートで知られてはいけない、悟られてはいけない、越前くんが好きだって事

しかし私が越前くんと出かけてるなんて事、あのレギュラー陣に、特に桃城なんかに知れたらどうなる事か
想像に容易く、瞬く間に部内に広まって要らぬ世話をされるだけ
出来れば卒業まで誰にも知られないようにしたかったけど、まさかご本人からデートに誘われるなんて思いもしないじゃないか


「なまえ先輩どこ行きたい?」
「そうだなぁ、じゃあ買い物、付き合ってもらおうかな」
「オッケー、行こっ」

あぁ笑顔が眩しいよ越前くん…
正直ずっと繋いでくれてる私の右手は手汗が酷いはずだし、ドキドキといつもより早く跳ねる鼓動が伝わってしまわないか若干挙動不審になっていると隣から見上げる越前くんと視線が絡んだ


「なまえ先輩って思ってたより背低いんだね」
「え、そうかな、でもそれは、あ、やっぱり何にも無い」
「なに、今すっごい失礼な事言おうとしてなかった?」
「いえ滅相もございません」
「今に見ててよ、絶対なまえ先輩よりでっかくなって見降ろしてやるから」
「ふふ、それは楽しみだな、期待してるよ」
「……」


* * *


何軒かお店を回って、気付くと辺りは薄暗くなっていた
あぁ、きっとこうして越前くんと出掛ける事なんてもう無いんだろうな
クラスメイトでもなく、同級生でもない、ただ部活で顔を合わせるくらいの関係が丁度良いんだ、今日の事は良い思い出だと、そう自分に言い聞かせた


「越前くん今日は本当にありがとう」
「それ俺のセリフじゃない?」
「良いの、楽しかったから、ありがとね」
「…俺も、楽しかったっス、ありがとうございました」
「ふふ、じゃあまた明日ね、越前くん」
「…なまえ先輩、今日ずっと何か言いたそうな顔してたけど、言わなくて良いんスか」


参ったな、顔には出さないようにしてたけど彼にはやっぱり分かっちゃうか
先輩と後輩のまま今日を終えて、明日からまたいつも通りに、私が越前くんを好きなだけの生活に戻るつもりだったのに


「えっ、と、言いたい事は、あるよ、あるけど言えない」
「それって、俺には言えないの、それとも、俺だから言えないの」
「…ううん、越前くんにしか言えない、でも」


無関心なようで本当はちゃんと周りを見てる、越前くんの良い所
悩み事や辛い事があると一番最初に気付いてくれるのはいつも彼だった
生意気だし口は悪いし、私の事先輩だなんて思ってないだろうけど、それでも良いかなって、だけど先輩じゃなくて一人の女の子として見て欲しいと、いつしかそう思うようになって、せめてマネージャーとして全力で彼を支えようと思ってたのに、ダメだ、今すぐ私の気持ちを分かって欲しい、伝えなくちゃ、折角越前くんが作ってくれたチャンスだから


「…なまえ先輩?」
「分かった、やっぱり言う、私ね、越前くんの事ずっと」
「待って、それ俺に言わせて、俺なまえ先輩が、なまえが好き、俺の彼女になって」
「越前くん、それ、本当…?」
「なんで嘘つかなきゃいけないの、それとも、俺の言う事信じられない?」
「違う、そういう訳じゃ、でも」
「じゃあ、これなら信じてくれるよね」


一歩前に踏み出して少し背伸びをした越前くんの顔が近付いて、視界が一瞬暗くなると同時に、私の唇はあっさり奪われた
酷いなぁ、これじゃますます越前くんの事、好きになっちゃうよ


「…どう、信じてくれた?」
「やっぱり越前くん、男前過ぎ…」


今日もアナタに恋をする


(ごめんね、首疲れない?大丈夫?)
(……あんまり言うとまた口塞ぐから)
(えっ、越前くん怒ってる?)

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