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□少しくらいの嘘ならば
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「なぁ仁王、チューリップの歌あるだろ、あれの花言葉並べると何になるか知ってるかい…」
「赤・白・黄色、簡単に言うと初恋失恋叶わぬ恋ってやつかの」
「そう、まさにそれ、今の俺は…」
「な、なんじゃ幸村どうした、おおお落ち着け」
「仁王くん君が落ち着きたまえ」


* * *

こんなに沈んだ気持ちで迎える昼休みは生まれて初めてで学食がサバの味噌煮にも関わらずなかなか喉を通らない
昨日の部活で俺の様子がおかしかったからか、一人で昼食を摂る俺のテーブルに仁王とブン太、柳が集まってくれた
苦労かける…

遡る事昨日の放課後
HRが終わって部活に行こうと荷物をまとめていると、教室の前の方から小さな声で俺の名前が聞こえてきた

カクテルパーティ現象って言ったかな、話し声に混ざった中から特定の声だけが聞こえるアレ

自意識過剰という訳ではないけれど自分の名前が聞こえれば気になってしまうもので、よく耳を澄ませば声の主はみょうじさんだった


「あぁ、幸村くんね、うん、ちょっと」
「ちょっと、何?」
「…苦手、かな」


好きな人の口から苦手なんて言葉、直接言われた訳ではないのに心にグサリと杭を打たれたような衝撃で、思わず部活を休もうかとも考えたがなんとか気力を振り絞ってこの気持ちをボールにぶつける事で解決しようと教室を後にした


「てか幸村くん好きな人いたんだ」
「俺とした事があんなに落ちとる幸村初めて見たきに本気で焦ったぜよ」
「ごめんごめん、俺もまさかここまで落ち込むとは思わなかった」
「その割には昨日のゲームは気合が入っていたがな」
「良いデータ取れただろ?」
「真田の顔引きつってたけどな」


このもやもやした気持ちをボールと赤也にぶつけて一時はスッキリしたけど、一人になるとみょうじさんの声が頭に響いて昨日は悪夢を見た
いや現在進行形で悪夢だと、夢だと思いたい


「でも苦手って言う割にはたまに部活見に来てるぜい」
「あぁ確かに何回か見た事あるぜよ」
「友だちに連れられて来ているだけのようだがな」
「そっか幸村くんも柳もクラス一緒か」
「それでも見に来るなら本当に苦手な訳じゃあないんじゃないか?」
「そうかな、そうなら良いな、うん、きっとそうだね」
「まずいナリ、幸村の目に光が無い」
「気をしっかり持て精市」


みんなから励ましの言葉を貰ったもののやっぱりもやもやした気持ちは晴れないまま
早い話、直接本人からあの言葉の意味を聞けば解決する事だけど、この話を切り出して最終的にあなたの事が嫌いですなんて言われた日にはきっとどうにかなってしまうだろうという最悪の事態を想定してしまった

まずそもそも俺とみょうじさんはクラスメイトというだけで特に接点がある訳でもないし、苦手だと言われる程関わった事は無くて、そんな風に言うにはきっと訳があるんだと思う
うんきっとそうだ、そうに違いない
つまり今まで通りにしていれば良いわけだ、それが出来れば苦労しないんだけど

授業は集中して聞いてはいたものの、やはり気になるものは気になる、このままでは赤也の体力が持たないだろうから何か手を打たなければ
もういっその事本人に聞いてしまおうか
ん、待てよ今目が合った、こっちに向かってる、いや、そんな事あるわけ


「幸村くん、ちょっといいかな」
「うん、大丈夫だよ」
「えっと、ここじゃちょっと話しにくいから」

これはまた今日も悪夢を見る羽目になるんじゃなかろうか

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