tennis

□いつだって君だけを
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〜♪

テニスコートの整備のために急遽部活が休みになった放課後、ふと気が向いて屋上に上がると奥から風に乗って鼻歌が聞こえてきた

(聞き覚えのある声…)

と言うか、毎日聞いていたい彼女の声だった
図書館じゃなくてここを選んで良かったな
彼女は俺に気付かず、まだあの綺麗なソプラノで鼻歌を歌っている

「…あーあ、今日テニス部お休みかぁ」

ふいに鼻歌が止まりぽつりと独り言を漏らした彼女の言葉に一瞬心臓が跳ねた
テニス部に用事かな?
その用事の相手が自分ならと少し期待を込めて、小さな背中に言葉を投げた

「みょうじさん、いつもここに居るのかい?」
「っ!?あ、幸村、くん」
「ごめん、驚かせてしまったかな」
「あ、違うの、ぼーっとしてたから、ちょっとびっくりしちゃって」


大きな目を見開いて振り向いた彼女は酷く驚いた顔をしていて、どうやらここには自分一人しか居ないと思っていたようだ
風に揺れる彼女の長い髪が夕陽を浴びてキラキラと光っている


「幸村くん珍しいね、屋上に来るなんて」
「テニスコートが使えないから急遽休みになってね、それにしてもみょうじさんずいぶんご機嫌みたいだね、可愛い鼻歌だったよ」
「え、あ、あ!やだ!…聞いてた?恥ずかしいな、誰もいないと思ってた」
「みょうじさん、いつもここに?」
「んー、そうだね、お昼はいつもここで食べてるけど、今日は用事もないし、お天気良かったから」
「そっか、ふふ、じゃあここに来て正解だったな」


同じクラスの、あんまり目立たないタイプで、誰にでも笑顔で、運動もそこそこで、それでもなぜかいつも、彼女に目が行ってしまって、気付いたら恋してて
友だちにも部員にも誰にも言ってない、自分の中に秘めていた感情
改めて、夕陽の中のキラキラした彼女に、自分は彼女の事が好きだなと


「所で、テニス部に何か用だった?」
「へ!?それも聞こえてたのか、嫌だなぁ」
「ごめん、盗み聞きするつもりはなかったんだけどさ」
「ううん、別に用事はないんだけど、ちょっと」
「あぁ、分かった、気になる人でも居るんだ」
「…幸村くんエスパーかな?」


あぁやっぱりそうか
以前部活のギャラリーの中に彼女の姿を見た事があったが、あの時はなにやらブン太と親しげにしていたな
俺と目が合うとサッと逃げて行ってしまったから苦手なのかと思ってたけど、後でブン太に「幸村くんほんとモテるのな、羨ましいぜぃ」と言われたからきっとみょうじさんの好きな人は俺だと思う、俺であって欲しい


「あの、幸村くん、これ誰にも言わないでね?」
「ん?みょうじさんの好きな人がテニス部にいるって事?」
「あ!もー、わざわざ言わないでよ…」
「ふふっ、ごめんね、わざと」
「ひどいなぁ、幸村くんそんないじわるな人じゃないでしょ」
「どうだろう、案外酷い人間かも」
「幸村くんが酷い人なら世の中大変な事になっちゃうんじゃないかな」


この、眉を下げて困ったように笑う顔
きっとこの笑顔に惚れたんだと思う


「ね、みょうじさんの好きな人、当てようか」
「…本気で言ってる?」
「割と本気、テニス部に居るなんて聞いたら気になるだろ」
「待って待って、そんなのすぐ分かっちゃうから、ダメ!」
「て事はレギュラーかな」
「ねぇやだ本当に当てる気でしょ」
「だってここまで分かっちゃったら当てないと気が済まない」
「分かった!じゃあ交換条件、幸村くんの好きな人、教えてよ、そしたら私も言うから」


俺を真っ直ぐ見つめる彼女の瞳に、これは嘘はつけないなと、逆に追い込まれてしまった

このまま正直に君が好きだと言ってしまおうか


「でも幸村くん好きな子とか居るの?」
「ん、それどういう意味だい?」
「あっ、違う悪い意味じゃなくて、ほら、幸村くんテニス、中学の頃から凄く頑張ってるでしょ、勉強も出来るし、恋愛なんてしてる暇あるのかなって、思ったん、だけど…」
「んー、そうだね、確かに中学の時はずっとテニスだけを追いかけて、テニスしか頭になかったかもしれない」


言われてみればあの頃は立海三連覇の為に所謂青春を全部テニスに注ぎ込んでいたような気がする
だけどボウヤとの戦いで、テニスを楽しむのも良いかもと、大人になる前にやれるだけの青春をしようと、少し考えた事はあった


「でもね、俺結構高校生活楽しんでるんだよ、テニスより好きだと思える人も出来た、今はまだ片思いだけど」
「……幸村くん」
「その子ってば何度か告白されてるみたいだし、自分がモテるの気付かないし」
「た、大変なんだね」
「本当にそう思ってる?」


その好きな子は目の前の君だというのに、そんな他人事みたいな反応して、やっぱり分かってないんだな


「今もすぐ側に居るのに全然気付いてくれないし、なんだか悲しいな…」
「えっ、誰も居ないと思って鼻歌歌ってたけど聞かれちゃったかな!」
「……みょうじさん、君だよ」
「ん?なに?私?」
「俺の好きな人、みょうじさんの事だよ」


いくらなんでもさすがにここまで言えば分かるよね


「さぁ、みょうじさんの好きな人、教えて貰おうかな」
「…幸村くん、だよ、中学の頃からずっと好きだった」
「ふふ、そうか、ごめんね、長々と待たせて」
「本当、ずっと待ってたんだよ、責任取ってよね」
「勿論、もう一生離さないから覚悟してよ」


いつだって君だけを
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