tennis
□恋をした
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「やっぱ意味分かんない」
「まだ言ってるの、その話」
「だって丸井が私の事好きになんてなる訳ないでしょ」
「俺はブン太じゃないから分からないけど、なまえは充分可愛いよ」
「……幸村に言われても格好良いだけだから他の子に言ってあげなよ」
結局二度目の浮気をした馬鹿な男とは別れた
丸井の告白なのかも良く分からない宣言から早二週間が経ったけど、あれからアイツは今までと変わらずで、やっぱりあれは気まぐれか、私がうるさいからただの慰めだったのか
クラスが同じだから毎日顔を合わせているけどいつも通りに挨拶して、お菓子を要求され、弁当のおかずを横取りしてきて、本当にいつも通りで、自分で言った事忘れてるんじゃないだろうな
「アイツ部活の時普通だった?」
「うん、いつも通りだったよ」
「ふうん、じゃあやっぱり気まぐれだったのかな」
「そう思うなら本人に聞いたらどうだい」
「出来れば苦労しないから」
たまたま廊下に居たから声をかけたけど幸村に相談したのが間違ってたのか私の欲しい回答は出てこなかった
自分でも分かってるけどこんな口が悪くて愛想も悪くて可愛らしさのカケラも無い女選ぶヤツが居たら是非会ってみたいもんだ
「はぁ、ごめん、部活行って良いよ」
「悩んでるなまえ見てるの楽しかったんだけどな」
「ほんっと良い性格してるよね幸村」
「まぁゆっくりなまえのペースで次の恋すれば良いよ、またね」
なんだかんだちゃんと話を聞いてくれる幸村は優しいヤツなんだよな、とヒラヒラ手を振って部活に向かう彼の背中を見送った
そうだ、テニス部見に行ってみよう、もしかしたら幸村の言うことは実は嘘で、丸井のヤツ普通じゃないのかもしれない、だとしたらどうなのだという話だけど
* * *
「すげぇ人、やっぱり人気なんだなテニス部」
ポツリと零した独り言は沢山の黄色い声に掻き消された
今日はレギュラー対その他の部員の試合の最中で、ちょうど一番近くのコートで丸井が打ち合っていた
「そういえば丸井がテニスしてるの初めて見たかも」
その姿はさながらプロ選手のようで、教室で見せるヘラヘラした顔とは違う、真剣な表情に思わず見入ってしまい、目が離せない
「なんだよ、格好良い、じゃん」
結果は丸井の圧勝で、流石常勝を掲げる立海テニス部のレギュラーだけあるなと感心していると、丸井がこちらを向いたと思えばアイドルさながらの笑顔でウインクを投げてきた
……今誰に向かってウインクした?周りのギャラリー?それとも、私?
自意識過剰でなければ、今丸井は確実に、私の方を向いていた、なんだそれ、なんなんだよ、なんで私、ドキドキしてるんだよ
丸井の試合が終わりコートから居なくなっても、そこから動けないでいると不意に携帯が震え、画面を見れば“部活終わるまで待ってて”と、差出人はヤツだった
* * *
「なんだよ、来てたんなら言えよ」
「……あのさ、この前の事、なんだけど」
「おっ、何だよ、とうとう俺の魅力に気付いた?」
「丸井、あのさ」
「俺はなまえが好き、絶対浮気なんかしねぇし、勿論させねぇ」
「丸井、ちょっと、何言っ、て」
なんだなんだ、なんだよいきなり
日が落ち始めた帰り道、なんだか丸井の顔が見れなくて下を向いて歩いていたけど、やっぱり気になって聞いてしまった、どんな反応が返ってくるか
全部を言い終わる前に、突然真剣な声でそんな事を言い始めた彼を見上げれば、表情まで真剣で、思わず足を止めて、息を飲んだ
なんなの、そんな顔、しないでよ
「なまえは俺の事友だちとしか思ってねぇかもしれないけど、俺はなまえが好き」
「丸井、あの、待って私」
「正直浮気されたって聞いた時チャンスだなって思った」
「な、何、それ、なんで」
「だから」
「待ってよ!私、私も丸井の事、好きだよ」
地面に落ちたカバンも、丸井の肩越しに見えたテニス部のみんなも、今は気にならなくて、私を抱きしめている丸井の心臓の音だけが心地良くて、耳元で小さく呟いた好きだという声に、私も、とだけ返した
恋をした
(ねぇ丸井みんな見てる)
(見せとけば良いだろい)
(まぁ良いか、好き)
(ん、俺も、大好きだぜい)