tennis
□笑ってたほうが可愛いよ
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他人からどう見られようが俺は俺でしかない
自分の事は自分が一番分かってる
そもそも他人から理解されようだなんて毛ほども思っていない
「仁王先輩、おはようございます!」
だがこの女は何故だか俺に興味があるらしい
毎日毎日飽きもせず俺の周りをチョロチョロと、こいつ相当な暇人じゃろう
「おはようさん、チビ」
「チビじゃありませんって!」
「いや充分チビじゃろ、153センチ」
「えっ、なんで身長知ってるんですか、ストーカー?」
「ストーカーはお前さんのほうじゃろ」
「いやそれほどでも」
全然褒めとらんのにこのふてぶてしさには感心する
朝は必ず玄関で挨拶、廊下ですれ違えば毎回手を振り、ほぼ毎日部活を見にコートに来る、帰りも遅くなるのに部活終わりまで残って挨拶して帰る
そんなに暇なら他にいくらでも時間の使い道はあるだろうに
* * *
「あっ!仁王先輩こんにちは!」
「…暑いのにさらに暑苦しい」
「私の事ですか?元気だけが取り柄なんで!」
「ポジティブ過ぎて着いていけん」
「仁王先輩はいつもダルそうですよね」
「暑いのは苦手なんじゃ」
今日も今日とて昼休みの廊下で真夏の太陽みたいに元気なみょうじが弁当を携えて寄ってきた
そういえばみょうじと出会うときはいつも一人で居る
朝も移動教室も、今この昼休みも
………もしや友だちおらんのか?
まぁ真相を聞いた所でおれが友だちになってやるなんて事にはならんから余計な事は言わないのが得策じゃろう
「……なぁお前さん、昼飯いつも一人で食うんか」
「え、あー、はい、まぁ、私おしゃべりだから一人じゃないとご飯進まないんです」
「ほー、意外と気遣い出来るんじゃな」
コイツは嘘をつくのが下手くそ過ぎる
明らかに目線を外し少し俯いて、外された目線は足元を見ていて、何で聞いてしまったんだろうか
「それなら、…いや、やっぱりやめた」
「なんですかそれ、じゃあ今日も部活頑張ってくださいね!」
俺は今何を言おうとした?
確かに直前まで一緒に食わんかと言いかけた、言いかけた言葉をなんとか飲み込んだが、それを言って俺はコイツとどうなりたかったんじゃろうか
***
「じゃあ俺ちょっと行ってくるんで、終わったら探しに行きますね!」
部活終わりにゲーセンに寄りたいと言う赤也に、幸村と一緒にくっ付いて行くと良く知った顔を見かけた
「あれ、仁王先輩だ!」
「……お前さんは本当に俺の事好きじゃのう」
「そんな呆れた顔しないでくださいよ」
「ねぇ君、みょうじさんだよね、一人でここに居たのかい?」
「幸村先輩もご一緒だったんですね!今日はちょっと、一人で帰りたかったので」
「お前さん、昼飯のときもそうじゃったが、本当は一緒に居てくれるヤツおらんのじゃろ」
「え、いや、そんな事無いですよ!たまたまですよ」
こいつはまた平気で嘘をつく、さっきから全然視線が合わない
別にこいつが一人で居ようがぎこちない作り笑いを見せようが俺には関係ない
後で聞いた話では、俺の周りをチョロチョロするのを良く思わない女子たちから距離を置かれているのだとか
ならなぜ毎日飽きもせず俺に構うのか
まともに相手にされた試しは無いというのに
「こんな所に女の子が制服でウロウロしてたら危ないから、もしまだ帰らないなら俺たちと一緒に」
「すまんな幸村、それなら俺は帰らせてもらうぜよ」
「仁王、みょうじさんはお前を見つけたから声かけてきたんだろ」
「良い加減相手にされとらんの気付かんもんかのう」
「え、…あ、ご、ごめんなさい、そうですよね、迷惑、ですよね、すいません」
「なんじゃ自覚あったんか」
「…すいません、帰りますね」
「みょうじさん待って、もう暗いから送るよ」
「いえ!大丈夫です、家近いので!失礼します!」
またあの下手くそな作り笑いで、逃げるように走っていった彼女はきっと泣いてるだろう
けど、これで良かったんだ、彼女の為を思うなら
「仁王、今のはいくらなんでも言い過ぎじゃないかな」
「………」
「すいませーん!お待たせしまし、た、どうかしたんすか…?」
「いいや何も、そろそろ帰るかの」
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