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□まずは、お友だちから
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小さい頃はお祭りの屋台が大きく見えたし、どれも美味しそうで綺麗だった
お母さんから貰ったお小遣いで何を買おうかとワクワクしながら歩いたな、と
「……完全アウェーじゃん、私」
結局あれから一緒に行ってくれる友だちは捕まらず、一人寂しくカラコロと下駄を鳴らしながら屋台を見て回っている私である
裏切り者の友だちが赤にすると言ってたから、水色の地に黄色の花が描かれた浴衣を選んで、一人で行くとは言えない複雑な心境で親に着せて貰った
すれ違うのは友だち同士かカップルばかり
私に浴衣着用でお祭りに行くようにと言ってきたアイツともすれ違ったけど、隣には同じクラスの男子を連れていて、意味不明なウインクをされたからお返しに中指を立ててやった
「何なの、と言うか私何しにここにいるんだろ」
「みょうじさん」
「……モテ男幸村、何してんの」
「それはこっちの台詞だよ、お友だちさんは一緒じゃないのかい?と言うかモテ男って何」
不意に名前を呼ばれて振り返れば、夏休みは予定が詰まってるはずの浴衣姿の幸村くん
そう言えば終業式の日彼に嘘をついた事になったな、申し訳ないね、お一人様で、浴衣似合ってるよ
「裏切られたの、私ってば可哀想でしょ」
「ちょっと意味が分からないけどみょうじさん一人って事だろ、危ないよ」
「わー、危ないよだって、幸村くん優しいんだね」
「そりゃこんな綺麗な子一人歩いてたら気にもなるだろ」
「……そんなに煽てたってたこ焼きは買ってやらないぞ」
「お世辞なんかじゃないよ、本音」
幸村くんは嘘をつかない、思った事は素直に言う人なのは分かってたけど、いやまさか私にそんな事言ってくるとは
今更自覚した訳ではないけど彼の事は中学の時から好きだった
生徒玄関で私を呼び止めた時、花火大会一緒に行かないか、とか言われるかな、なんて少し期待したりもした
「幸村くん、もうすぐ花火始まるけど行かなくて良いの?」
「そうだね、じゃあ行こうか」
「えっ、ちょっ、幸村くん!?」
ニッコリと微笑むと幸村くんは私の手を掴んだ
「花火、一緒に見よう」
* * *
「ねぇ、幸村くんどこまで行くの?花火見るならあっちのほうが」
「俺良い場所知ってるんだ、もう少し先だから」
「で、でも、手!ちゃんと着いていくからもう離しても大丈夫だよ」
「ダメ、俺は離したくない」
「……な、に、それ」
私の手を引いてどんどん人混みから離れていく
幸村くんってこんな強引な人だったのか
「ほら、着いた」
「…本当にここから花火見えるの?」
「ここね、小さい頃妹と見つけた場所なんだ」
「幸村くん妹いるんだね、意外」
「ふふ、良く言われる、昔妹とお祭りに来て迷子になってね、偶然辿り着いたんだ」
「ふぅん、なるほどね、今みたいに手繋いでたんだ」
「…おっと、ごめん、ずっと掴んだままだったね」
少し強引に手を引かれ着いたのは、人混みから離れた小さな橋
ずっとこの辺りに住んでるけどこんな場所あったのか、なるほど迷子にでもならなきゃ見付けられない訳だ
「花火までもう少し時間あるね」
「幸村くん、誰か一緒だったんでしょ、行かなくて良いの」
「今日は俺一人だよ」
「え、嘘だ、絶対女の子と一緒だと思ってた」
「みょうじさんの事探してたんだよ」
「……は、なんで?私一緒に行こうなんて」
「言われてない、けど俺が勝手に探してただけ」
確かにあの時幸村くんと一緒に花火見れたらな、とは思ったけど、まさか願望が幻でも見せているのか、私の隣に立つ浴衣姿のこの人は紛れもなく幸村くんで、無意識に自分の頬を摘んで夢ではないかと確認した
まさかアイツが言ってた対策って、まさかまさか幸村くんに連絡したのか?何をしてくれてるんだ、怒るに怒れないだろうが
「みょうじさん、痛くないの」
「……うん、めっちゃ痛い、夢じゃないんだね」
「俺さ、中学からずっとみょうじさんの事好きなんだ」
「待って待って突然過ぎるよ幸村くんワンクッション置くとか出来なかったかな?」
「みょうじさん妹にちょっと似てるんだよね、だからつい目が離せなくて、いつの間にか好きになってた」
「なん、だそれ、意味分かんない」
何を言い出すのか前置き無しの突然の告白に思考回路が軽くパニックを起こしている
幸村くんが私を好き?嘘でしょ、たまたま中学三年生の時と高校三年間同じクラスだって事位しか接点無いのに、それともまさか本当は誰かと一緒に来てて罰ゲームでしたってオチ?むしろそうだと言って欲しい
「で、でも、私の事どうせ妹みたいにしか見てないんでしょ、それなら」
「こんな事、妹に出来ないだろ」
幸村くんの顔が近付いて、唇が触れた瞬間、今年一発目の花火が上がった
まずは、お友だちから
(俺の彼女になってください)
(こんな、こんなの、ずるい)
(残りの夏休み楽しみだね、なまえ)
(だから、ずるいって!)