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□グッジョブ、昨日の私
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「おづがれざまでず」
「……なまえはいつの間に東北の人になったのかな?」


おい柳先輩笑ってんじゃないぞ

昨日の帰り道通り雨に見舞われてずぶ濡れで帰ったのが原因なのは分かってる

それに加えて昨日は鍵を忘れ、親が帰ってくるまで30分程家の前で死にそうになっていたから恐らく風邪なんだと思う、と言うか風邪だ


「おーおー、折角可愛いなまえちゃんのお顔がマスクで隠れちょる」
「仁王先輩近寄らないでください」
「えっ」
「あっ、違う!伝染るから!そんなに落ち込まないでごめんなさい!」


部室に着くなりピョンピョンと近づいてきた仁王先輩の純真な心を傷付けてしまったけど今日は許されるはず

ボーッとしてなかなか頭が回っていないらしく授業もまともに聞いていなかったし


「なまえちょっとおいで」
「嫌です」
「蓮二頼む」
「よし任せろ」
「ぎゃっ!幸村先輩絶対熱測ろうとしてるでしょ!体温計持ってるもん!柳先輩離して!」
「観念するんだな」


どこから出してきたのか笑顔の幸村先輩の右手には体温計

昼過ぎからずっと寒気がしてたから測らなくても熱があることくらい分かりきってるんで勘弁してください帰りたくないんですけど

この人たちの事だから具合の悪い人間が居るのがきっと許せないんだろう、だけど放課後まで頑張ったんだから今更帰るなんてそんなの嫌だ


「柳先輩ほんと離し、は、は、ハックシュン!」
「ほら、やっぱり風邪じゃないか」
「うぅ…帰りたくない…」
「今無理して明日来れないのはお前も嫌だろう」


そうは言われてもマネージャーは私しか居ないし、先輩方に任せるのなんて絶対無理だし、かと言って切原に任せると明日の仕事が増えるだけだし

あぁでも鼻水は止まらないし喉も痛くなってきた

傘を持っていなかった昨日の自分をこんなに恨む事になるとは


「ねぇなまえ、自分が居ないとみんなが困るって思ってるだろ」
「……お、思ってます思ってます、だから今日は本当に勘弁してください帰りたくない」
「俺としてはなまえに倒れられるほうが困るんだけどな」
「うわぁ幸村先輩が部長っぽい事言ってる」


眉間に穴を開ける勢いでプッシュしてくる神の子は相当怒ってるようだ

いつの間にか私の両腕を解放していた柳先輩の後ろで仁王先輩がうろちょろしてるみたいだけどこの人本当にペテン師なのかな?


「へ、へっくしゅん!うー…」
「ほらほら、鼻かんで」
「うぅ、ごめんなさい…」
「精市あとは任せろ」
「うん、ありがとう蓮二、仁王も、苦労かける」


渋々、仕方なく、しょうがないので、本当は嫌だけど、今日は大人しく帰って明日から元気にマネージャーしよう

所で幸村先輩なんで私の鞄持ってるんでしょうかあなたこれから部活でしょうが


「自分で歩けるかい?なんなら家まで抱えて行こうか」
「…………へ?幸村先輩部活」
「大丈夫今日レギュラーは自主練だけだから」
「いやそうじゃなくて、私一人で」
「一人で帰るなんて言わないよね」


笑顔の裏に怒りが見える

それはつまり、幸村先輩と私が、一緒に帰るという事で、合ってるのかな?

いや、いやいや待て待て、これは私の頭が回っていないから勘違い、じゃないね私の鞄を持った幸村先輩が手を差し出しているのが視界に入っているもんね


「あの、先輩、私別に一人で、帰れます」
「そう言うだろうと思っていたよ、だけどお願いだから俺の言う事、聞いてくれるかな」
「でも、それはちょっと、えっと」


そんな事、そんな事出来るわけ無いじゃないか

まさか好きな人と一緒に帰るなんて


「ほら、おいで」
「……はい」


この後どうやって家まで帰ったのかは覚えていないけど、幸村先輩が私の事を好きだと言ったのはハッキリ覚えていて、鍵を忘れた昨日の私に、少しだけ感謝した



グッジョブ、昨日の私



(なぁみょうじ、お前それ幸村部長のジャージじゃね?)
(うん、まぁね)
(は?え?何、どういう事?)
(赤也、俺の彼女にちょっかい出さないでくれるかな)
(……マジかよ)

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