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□この腕に飛び込んで
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「今日も格好えぇわ」
「ホンマ、王子様」


どこからともなく聞こえてくる、飽きるほど聞いてきた、女子たちの言葉


「また何か言われてんで王子様」
「……はぁ」


最初の頃はなんでそんな風に言われるんやろかと疑問に思い否定しとった

せやけど流石に何年も同じ事言われ続けたらそりゃ慣れるってもんで


「白石くんおはよう、今日も格好えぇね」
「おはよう、岡本さんも可愛ぇよ」
「やだ白石くんたら!」
「おい岡本、俺には何も無いんか」
「忍足邪魔や白石くんが見えへんやろ」
「なんでそんな扱い違うねん!」


何でやろな、そりゃ褒められて嬉しない訳無いんやけど、これも慣れなんやろか、なんか悲しなってきた


「白石おはよー」
「っ、お、おはよう!みょうじ」
「モテる男は朝から忙しいねぇ」
「茶化さんといてや」
「なんや白石、みょうじといつの間に仲良しなったん」
「忍足もおはよう」
「……お、おう、おはよ」


出た、みょうじなまえ、俺が一番苦手な女子

他の子とは違って運動部の男子にキラキラした目を向ける事も無く

サバサバした性格だからか、どちらかと言えば彼女のほうが男子よりモテとる気もする、彼女盗られたと嘆くヤツも時々おる

あの謙也でさえも一歩引くほど綺麗な顔しとるし


「なまえおはよー、ちょっと忍足、なまえに気安く話しかけんといて」
「なんでやねん誰もこんな猿興味無いわ」
「あんたに興味持たれる筋合いもないけどね」


また始まった、何があってそんなに男に厳しいのか

女子からすれば王子様みたいなみょうじは我々男子には手厳しい、一つ冗談を言えば倍になって返ってくる


「あ、ねぇ白石」
「ん?」
「放課後、部活の前ちょっと時間頂戴」
「あぁ、まぁ良えけど、そんな長くは」
「あー大丈夫大丈夫、一瞬で終わるから!じゃあまたね」


なんやろ、めっちゃ怖いねんけど、あの笑顔


「なんや白石、とうとうアイツに刺されんちゃう」
「縁起でもない事言うな」


***

この間までジリジリと焼け付くような太陽が刺していたのに、気が付けば日が落ちるのも早くなり秋が近付いているのだなと気が付かされた

電気は消され誰もいなくなった教室にただ一人残ったみょうじは、眩しい程の夕陽を背負っていて、不覚にも綺麗やな、と思ってしまった

「ほんで、用事って何や」
「そんな怖い顔しないでよ」
「部活行かなあかんねんから早うしてくれ」


何か、含みのある眼差し、きっとみょうじのこの目が苦手なんやろな、俺


「白石さ、私の事嫌いでしょ」
「何を突然、変な事言いなや」
「だって白石、私と喋る時声のトーンちょっと下がるし、あんまり目見て喋ってくれないし」
「それは、まぁ、すまん」


呼び出した理由はきっとこんな事言うためやないんやろな、あの含みを持った目がほんの少し細められとる


「私のどこが嫌い?」
「別に嫌いやなんて」
「じゃあ、苦手、でしょ」


何が言いたいんや、自分で言うといてさっきっから目も合わせへんし

それに対して少しばかりの苛立ちを覚えたのは何故なのか


「言いたい事有んねやったらはよ言いや」
「……分かった、あのさ」


小さく息を吐いた後上げられたみょうじの顔は夕陽を背にしているから良く見えない

立ち上がり一歩、二歩と近付いて視線を真っ直ぐこちらに向けた彼女の顔が徐々に見えてくる

みょうじ、お前なんちゅう顔してんねん


「私、白石の事が好き」


なんで、なんでそんな苦しそうに笑てんねん、こっちまで苦しくなりそうや


「みょうじ、お前」
「それだけ、じゃあね、部活頑張って」


無理やり作った笑顔でそんなん言われても、なんて返したら良いか分からんわ、どないせぇっちゅうねん

再び視線を落として俺の隣を通り抜けようとするみょうじの腕を咄嗟に掴んだ、思っていたよりずっと細い腕、こんなに近くでみょうじを見たのは初めてかもしれない


「返事、聞かんで良ぇんか」


まさかみょうじが俺にそんな事言ってくる日が来ると誰が思っただろう

今頃部室で謙也がある事ない事ベラベラ喋ってんやろな


「みょうじの事、正直苦手やと思とった」
「……うん、そうだろうね」
「けどそれももう過去の話や」
「何それ、どういう」
「今は、みょうじの事が好き」


あぁ、またそんな苦しそうな顔をする

そんな顔すんねやったら最初から言わんかったら良かったのに、せやけど、さっきの好きは、みょうじにとって精一杯勇気振り絞って紡いだ言葉やったんやろな


「そんな苦しそうな顔されてほっとけるわけないやろ」
「私、そんなつもりは」
「もし、もし本当に俺の事好きやっちゅうなら」


なんや、結局自分も余裕無いんやんか、早く見たい、みょうじの笑った顔


この腕に飛び込んで
(抱き締めさせてくれないか)


(なんなの白石ムカつく程温かいんだけど)
(こっちの台詞やわ、なぁ、因みに俺のどこが好きなん)
(……ナイショ)
((何やのこの可愛い生き物))
((全部好きだわ馬鹿))


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