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□私を思って
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“昼休み、校舎裏の花壇で待ってます”


差出人の名前は無く上履きの右足の中に置き去りにされた紙切れに書かれた綺麗な文字には見覚えがあった

あの人は今自分がどういう状況なのか分かってるんだろうか、こんなクソ寒い日に屋外に呼び出すなんて、私がそこに行くかも分からないのに


「何考えてんの、幸村」
「あ、来てくれたんだね、ありがとう」
「また風邪ひかれたら困るし、と言うかお前ほんと馬鹿だろ」
「女子から馬鹿って初めて言われたな」


笑ってる場合かよ、予想通り昨日の雨のせいで風が冷たい、しかも校舎裏なんて風が強いのにこいつは防寒対策も何もしていない

先週風邪ひいて四日も休んだの誰だよ


「ここの花壇美化委員の人たち世話してくれないんだ、元気無いだろ」
「ちなみに私も元気無い」
「それは大変だ、お水あげようか」
「殺す気か」


そしてその元気の無い花壇の世話を四日間やってたの美化委員でもないただの用具委員の私だからな

まだ蕾も付いていない、ただ葉っぱだけが生えた花壇を愛おしそうに眺める幸村の頬は冷たい風に晒されて少しだけ赤くなっていた


「ここに球根植えたの俺なんだけど、休んでた間誰か世話してくれてたみたいだね」
「そりゃあ良かった、もう満足だろ、教室帰るぞ」
「え、待ってよ何のために呼んだのさ!」
「そうだよ、何のために呼ばれたのさ!」


そうじゃん私をこの寒空の下に呼び出したのは他でもない幸村精市、お前だ、何の用だ早く言え、温かいコーンポタージュが飲みたい


「部活の後輩が世話になったみたいだね」
「ん?あぁ、えーと、切原くんだっけ?世話って程じゃないけど」
「ごめんね、悪い子じゃないんだけど」
「分かってるよ、だって幸村の後輩じゃん」
「……それは、どうも、ありがとう」


何だそのきょとん顔は、私何か変な事言ったかな

テニス部の切原くんと言えば血気盛んな問題児、いやそこまでではないか、兎に角元気、それはもう生徒指導の先生が目を離さない程に、あと風紀委員長も

そんな元気な切原くんが放課後学校の近くの公園で他校の生徒と喧嘩してる所に私が遭遇して、その他校の生徒がたまたま中学時代マネージャーやってた部活の後輩だったから止めに入ったと言うだけの話


「しかし切原くんって面白い子だよね、私あーいう子好きだよ」
「へー、意外、みょうじ年下好きなの?」
「いやストライクゾーン圏外だけど見てて面白、いや私の趣味の話は良いから本題に入ってくださいますかね幸村さん」
「あぁそうそう、ね、みょうじって今付き合ってる人居ないよね」
「……え、うん、まぁ、居ませんけど」


何だそれ、幸村がそんな事聞いてくるなんて予想外だな、興味無さそうなのに

いやそうじゃなくて、そんな事聞いてどうするのかな?やっぱり喧嘩売ってんのかな?

話の流れ的に付き合ってる人居ないのか聞いたらその後はもう告白だろうけどそんな訳無いよね幸村の事だし


「今度俺とデートしてくれないかな」
「……幸村ってたまに面白い冗談言うよね」
「ふふっ、そんなつもりは無いんだけどな」
「人違いだったかな?じゃあ私はこれで」
「あぁ待って待って」


ちょっと早とちったかなそうだよね付き合う前にとりあえずデートだよね、ってなんでだよ!は!?私が幸村とデートすんの!?期待しちゃうよ!?

付き合ってる人居ないし無趣味だから常に暇だから別にちょっと出かけるくらい良いけど、うーん、だって幸村でしょ…


「あの、私で良いの?他の子とか」
「みょうじが良いんだ、ダメかな」
「……ダメ、じゃない、大丈夫」
「良かった、じゃあ日曜日空けておいてね」


なんですかねその笑顔、めちゃくちゃ輝いてますけど

手に付いた土をパンパンと払い荷物を持って去ろうとする幸村の頭上には音符が浮かんでいそうなほどにニコニコとしている

え、でもちょっと待って行き先どこだよ


「ね、ねぇ幸村、ちなみにどこ行くの」
「当日のお楽しみ、って事で」
「……は、なんだそれ」
「あとそこの花壇に四つ葉のクローバーがよく生えるんだけど、幸運以外にも花言葉があるから調べておいて」
「花言葉?あ、ちょっ、行っちゃった」


“幸運”の他にも花言葉があるなんて知らなかったし、家に帰って花言葉を調べた私は携帯を握りしめながら二十分間悶え苦しんだ


私を思って
(とっくの昔から好きだっつーの)


(わぁ、みょうじ可愛いね)
(なんでそんな恥ずかしげもなく言えるのかな!)
(だってみょうじの私服初めて見たし、本当に可愛いって思ったし)
(……行くんだろ植物園、早くして)
(照れてる、可愛い)
(うるさい!)


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