tennis

□そりゃまぁ男の子ですから
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「じゃあまた明日」
「うん、部活頑張ってね」
「寄り道しないで帰るんだよ」
「分かってるよ!」


この人は私の事なんだと思ってるのかな、寄り道なんてしないよ、ちょっと帰り道コンビニ寄って肉まん買うだけだし

ラケットバッグと大きな背中を廊下の向こうまで見送って、さて私も帰ろう、コンビニ寄って


「あー待って待って!なまえ帰るの!?」
「あー、うん、道草くってからね」
「……ねぇ、なまえ帰宅部だよね、暇でしょ?」
「いや帰宅部だけど暇じゃないよ道草くうって言ったじゃん」


この後この友人の口から放たれる言葉を理解するのに五分かかったしきっと理解しなければ良かったと激しく後悔するんだろうな、五分後の私


***


「やだー!」
「ごめん!一生のお願いだから!」
「一生のお願いこの前も聞いたぞ!」


先月も聞きました、一生のお願い

“来週の練習試合にチア部として出てほしい”

そう言われたのはかれこれ二十分前で、なんでも部員が一人骨折したから代わりに来週あるテニス部の練習試合に出てくれないかという一生のお願い、でもチア部いっぱい人居るだろ私なんかに頼まなくてもいくらでも


「丁度二年生はみんな修学旅行だし、一年生にはまだテニス部の応援には出させられないし、頼れるのはなまえしか居ないんだよー!」
「だからなんでそこで私になるんだよ、と言うかテニス部の応援はって何だよテニス部どんだけ偉いんだよ」
「偉いよ!例え練習試合と言えど半端な技術の子にテニス部の応援なんかさせられないから!」


なんだこいつめっちゃ怖いんだけどテニス部ガチ勢なの?そもそも、その大事なテニス部のチアを帰宅部の一般生徒に頼むのはどうなのか

と言うか私にはそんな事出来るわけないだろ、知ってて言ってるでしょ友人氏


「でも私テニス部の応援はちょっと」
「分かってるよ、幸村くんでしょ?でももうそんな事言ってる場合じゃないの!お願い!」


幸村くん、と言えば立海大の有名人である

と同時に私の、所謂彼氏、という存在

馬鹿なのかなこの人!やっと手繋いで帰るようになったくらいなのにチアの、あの、あの衣装着てる所なんて見せられるわけないだろ!馬鹿なのかな!?二回言ったぞ私!!


「まず運動なんてそこそこしか出来ない私がチアなんて出来る訳ないでしょ、諦めて、肉まんが私を待ってるから」
「ねぇー!お願い!なまえなら出来る!好きだろ幸村くん!」
「今その話関係無いだろ!」


***


「常勝立海大!」
「いっそ殺せ」


練習試合と言ってもこっちも相手校もレギュラー部員しか試合しないそうで、そして結局あの後衣装とポンポンを渡され手取り足取りスパルタ指導でダンス、って言うのかな、アレを叩き込まれた私ですどうも


「ねぇもう帰って良いかな」
「ダメだよ幸村くんの試合これからでしょ」
「だから帰りてぇんだよ!」


なんなのこれ、何の罰ゲームかな私前世で何かした?

そんな事を考えているとコートに姿を現した彼氏様、お願いだから気付かないで、あなたが普段応援団のほうに見向きもしないの知ってますから

土下座して頼み込んでなんとか一番端のポジションを手に入れたからきっとコートからは見えないだろうけどもし見付かったらどうしよう、私もう学校行けないねはい幸村くん目が合いましたねごきげんよう

案の定目が合った、んだと思う、けどすぐに相手コートに目線を移した、きっとバレてない、まさか私がチアの中に居るなんて思わないでしょ、そうでしょ幸村くん


「さっきのどういう事か説明して貰おうか」
「バレてんじゃん!」


練習試合が終わり部員がわらわらとコートを去る中真っ直ぐこちらに歩いてくる幸村くんはさながら魔王いや何でもないです


「何、その格好」
「いや、えーと、これには理由がありまして」
「ゆっくり聞いてあげるよその言い訳、俺の家で」
「……え、え?ま、待って幸村くんそれどういう」
「とりあえずこれ着てて」


なんなのこの人優しいのか怖いのかどっちかにしてくれよ好き

至極不機嫌そうな顔で肩に掛けられていたジャージを私に被せてきた幸村くんは部室へと消えていった

……え、私幸村くん家行くの?これから?嘘でしょ?


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