tennis
□羊に恋する夢を見た
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寒い、あぁ寒い、なんて寒いんだろう、冬というのは
短い冬休みもあっという間に過ぎてしまった新学期
初詣に行った近所の神社で見かけたクラスメイトの隣にはそれぞれ男の子を連れていた
おいおいちょっと待ってくれ私それ聞いてないんだけど、私の隣空いてますよ?
そんな微妙な空気で明けた新年、そして新学期、何故かみんなから微妙に距離を置かれてしまい最近お昼は一人ぼっちです寂しい、彼氏優先かよ薄情者め
そして寒いのは食堂までの廊下ではなく私の心でしたってオチ、全然面白くない
「なんや辛気臭い顔しとんなぁ」
「忍足くんは相変わらず胡散臭い顔してるね」
「うわぁ傷付くわぁ」
「どうせそんな事思ってないでしょうが」
まぁ元気出しや、と去り際に投げて寄越したのは大阪名物飴ちゃん、そういう事するから女の子達勘違いしちゃうんじゃないでしょうか
忍足の後ろ頭が遠ざかるのを見届けて食堂へと足を進めた
向日情報では今日のおすすめは唐揚げ定食だそうですが私は断固としてパスタランチを食べる、すまんな向日
***
新学期から私のお昼休みはおひとり様が安定になってしまったから最近のマイブームはこの広い氷帝学園内の探検
いやそれは一年の時にやれよという話だけども
「あれー、なまえちゃんだー」
「……慈郎くん、何してんのこんな所で」
「こっちのセリフだC、なまえちゃん一人でなにしてんの?」
「探検」
「Eー!なになに!?楽しそう!俺も混ぜて!」
頭の後ろで手を組んでてくてく現れたジローくんは探検という言葉を聞くやずいっと前のめりに目を輝かせた、あのね慈郎くん、ちょっと顔近いかな
じゃあまずはこっち!と嬉しそうに廊下を進み始めた慈郎くん、はて、ちょっと違和感が
「なまえちゃんお正月お餅何個食べた?」
「毎日一個食べてたよ、三が日中」
「あのね、俺三日で十個も食べた!」
「食べ過ぎじゃない?」
「だってさだってさ、美味Cじゃんお餅!」
「……慈郎くん今日めっちゃテンション高いね」
そうだ、慈郎くんといえばアレですよ、なんで今日起きてるんだろう
授業中もお昼ご飯の時も昼休みも部活中もずっと寝てる慈郎くんが起きてるなんて
「ねぇ、慈郎くんお昼寝しないの?」
「え?なんで?」
「……ん?え、なんでってこっちのセリフだけど」
まさか質問を質問で返してくるとは
別に慈郎くんがいつ寝ようが彼の勝手だけど普段あれだけ寝てる人が今目の前で元気に動いてるの見たらそりゃ気になるでしょうよ
「本当はお昼寝しようと思ってこっち来たんだけどさ、なまえちゃん見付けたら目が覚めちゃった!」
「……は、へ、へぇ、なるほど」
何もなるほどじゃないぞ私
なんだその可愛い理由は、そんな事言われたら傷心中の私は勘違いしちゃうぞ
「ね、なまえちゃんこっちこっち」
「あっ、慈郎くん待って」
あまりに可愛い事言うから一瞬放心していると不意に腕を引かれ空き教室へと強制連行された
慈郎くんてばまたそうやって私の事勘違いさせて、忍足くん然り氷帝テニス部員は女の子を惑わさてどうしたいと言うんだ
「何ここ、資料室?」
「ここね、おっきいソファーがあるから俺のお昼寝スポット!」
「資料室にソファーって、意味あるのかな」
「はいっ!」
「ん、ここに座れば良いの?」
「お話しよ!」
なんだこの可愛い生き物、お話しよってなんだよめっちゃお話しますよ
右隣にはニコニコと私を見つめる慈郎くん、お日様に照らされた金色の髪がキラキラと光っていてなんだか天使みたいだ
「なまえちゃんは、ケーキとか好き?」
「うん、甘い物は好きだよ」
「じゃあじゃあ、今度俺と食べに行こ!」
「え、い、良いけど、慈郎くんケーキ屋さんとか行くの?」
「あのね、この間立海の丸井くんと一緒にケーキ屋さん行ったんだけどさ、次はなまえちゃんと行きたいなーって思ったんだよね!」
そういえば慈郎くん、丸井くんと仲が良いって聞いた事あったけど本当だったんだ
そしてその後なんとおっしゃった?私とケーキ屋さんに行きたいと?
私が慈郎くんと仲良くなったのは学校の近くのケーキ屋さんで、まさかうちの学校の男子が、しかもあのテニス部のレギュラーが一人で来ていたから思わず声を掛けたのがきっかけ
その時は友だちにおすすめされたから来てみたけどどれも美味しそうで迷うから君が選んでよ!って言われて何故か一緒に選んで一緒にお茶をした、今思うとその友だちは丸井くんだったんだね
「ね、ねぇ慈郎くん」
………おや、返事がない、もしかして
「ぐう」
「……やっぱり、寝てる」
だよね、慈郎くんがお昼休みに起きてるなんてなんか変だなって思ったんだ、ごめんね慈郎くん無理させて
すやすやと気持ち良さそうに眠る慈郎くんの横顔を見ているとなんだか、だんだんこちらに向かってきているような気が、え、ちょっと待って慈郎くん傾いて、そのまま倒れたらこれは、あの
「っ、えっ、ど、えっ」
「ん〜、むにゃ」
所謂、膝枕、という体制になっている訳で
ど、どうしよう、一回寝たらなかなか起きないって聞いてたけど
「じ、慈郎くん、ね、起きて、お昼休み終わっちゃう」
「ぐう…」
「ダメだ、私慈郎くんの起こし方知らないや」
お日様に照らされた慈郎くんの金色の髪、長い睫毛、ちょっと薄めの唇、こうして見てるとなんだか本当に天使みたい
いつもより少し気温も高くて、あぁ、慈郎くんの綺麗な寝顔見てたら私まで眠たくなってきちゃった
「慈郎くん、ケーキ屋さん、楽しみにしてるね」
「ぅんー…、ふふっ」
天使の髪を撫でながら、私も夢の中へと落ちていった
羊に恋する夢を見た
(……はぁ、仕方ねぇな、樺地、毛布掛けてやれ)
(ウス)
(なんや、天使みたいやなぁ)
(たとえ天使と言えどサボりはサボりだからな)
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