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□水平線のその先に
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東京と違う空の色、エメラルドグリーンの海、見た事の無い道、さーてここはどこでしょうか

何を隠そうこの私、絶賛迷子中でございます

待って待って待ってここどこ本当に、え、まさかこんな所で迷子とか洒落にならないんだけど、みんなどこ行ったの?


「嘘でしょ…」


高校卒業したらきっと時間合わないだろうから今のうちに皆で旅行行こうよ!という友人の発言から、修学旅行は北海道だったし沖縄にしよう!という事でやってきた沖縄

お土産屋さんの店員さんに捕まっている間に友人達はいつの間にか居なくなっていて、オフシーズンでもそれなりに人の多い国際通りで迷子になってしまった


「ここどこだよー、みんなどこ行ったの…」


見知らぬ土地で迷子になるというのは想像以上に不安になるもので、しかも東京は海の向こう、そして荷物はホテルの部屋、どう頑張っても一人でホテルまで辿り着かなくてはならない


「うぅ、と、とりあえず来た道戻ろう」


自分が迷子だと自覚してしまうとなにかに縋りたくなってしまう、キョロキョロと辺りを見回しても知らない道、知らない人、果たして私は友だちと合流出来るんだろうか


「あ、て言うか電話すればいいんじゃん」


流石に我ながら頭が回ってないなと呆れてしまったけどこの状況なら仕方ない!ね!

とりあえず歩きながらの操作は危ないから人通りの少ない路地に入ろうと振り返ると顔面に衝撃を受け弾き飛ばされた

弾き飛ばされた?どういう事?え、めっちゃ痛い何今の、私鼻めり込んでない?大丈夫?


「いっ、たぁ…、ご、ごめんなさい!」
「……、ちゃんと前向いて歩きなさいよ」
「すいませ、あ」
「私の顔に何か付いてました?」
「あ、いえ!ごめんなさい、すいませんでした!」


いけないいけない人様の顔ジロジロ見るなんて

けどびっくりした、この人中学時代友だちと行った全国大会で見た比嘉中の人だ、名前は、いやそれ所ではない、あーやだ早く連絡しなくちゃ、いやまず私がいなくなった時点で連絡してこいよ!

ぶつかったのは私の不注意だし申し訳ないけど今は兎に角なんとしてもホテルに帰りたい、買い物も観光も済ませたからあとは帰るだけだったのに


「ちょっと、待ちなさいよ」
「へ、え?私?」
「貴女さっきからキョロキョロしてますけど、もしかして道にでも迷ってるんですか?」


しかも見られてたよ、恥ずかしいなちくしょう

あの全国大会で見た時もそうだったけど、やっぱりちょっと見た目が、なんと言うか、怖い、ジロリとこちらを見る切れ長の目が、そしてリーゼントのようなきっちりセットされた髪型、背も高いし


「私で良ければ道案内、しましょうか」
「……えと、あの」


どうしよう、この人本当に怖いんだけど

でも今頼れるのはこの人だけだし、友だちに電話した所でいなくなるお前が悪いとか言われそうだし、ぶつかったのにこんな事言ってくれるんだからきっと優しい人なはず、人を見た目で判断しちゃいけないぞ、頑張れ私


「じゃあ、よろしくお願いします」



***

「なかなか薄情なお友だちですね」
「もっと言ってやってください」


来た道を一緒に戻ってくれた眼鏡の彼は木手永四郎くん

見た目に反して優しい、そしてきっと同い年だろうに敬語で話してくるから思わず私まで敬語になってしまう


「じゃあ木手くんありがとう、ここまで来れば大丈夫だから」
「お役に立てたようで何よりです」


ホテルの近くまで来たものの友人の姿は無く、もしやと思って連絡してみたらみんな部屋に居るのだと、私が先に戻ってると思ったらしいけどだったら連絡の一つくらい寄越せよ!彼の言う通り本当に薄情なお友だちですよ


「あ、どうしよう、何かお礼しなきゃ」
「あぁ、それならお気遣いなく、私が好きでやった事なんでね」
「でも、木手くん何か用事があったんじゃないの?」


地元の人と言えど国際通りに居たという事は恐らく買い物にでも来ていたんだろうし、彼の貴重な時間を貰ってしまったんだからお礼くらいしたいのに

と言っても今手元にあるのは携帯と鞄に入っている少しのお菓子くらいだけど、食い下がらない私に見兼ねてか木手くんは少し考える仕草の後一歩二歩、私に近付いた

あれ、ちょっと待って木手くん、それ以上近付いたら、私たち


「…これで結構です、それではまた」
「っ、き、木手くん!?」


背を向けて歩き出した木手くんは今、今私の、頬に

余りに突然だったから理解するのに少し時間がかかってしまったけど、確かに木手くんは私の頬に、キスをした

呆然と去って行く背中を見詰めていると木手くんの足が止まり、振り返った


「また、俺に会いに来てください、それともこちらから会いに行きましょうか」


ふっ、と優しげに微笑んだ木手くんは再び歩き出し、その姿が見えなくなるまで私はホテルの前で立ち尽くすしか出来ないでいた

なに、木手くん、俺って、と言うか、会いに来るって、それは


水平線のその先に


(約束通り会いに来ましたよ)
(ねぇ、わざわざ東京まで来るなんて、それって)
(えぇ、あの時から好きになりました、なまえの事が)



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