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□君が好きだ!
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「ねぇ、今日幸村くん家、行ってもいいかな」


その一言は余りにも俺の心に突き刺さり、下駄箱から出した上履きは手を離れ床に落下した

まさか今日が何の日か分からない訳が無いはずだ

だって、彼女の左手には紙袋が下げられていて、その袋には綺麗にラッピングされた小さな箱が入っているし

いやちょっと待て俺の早とちりかもしれない、もしかしたらみょうじさんには妹か弟が居て俺の妹と友だちなのかもしれないし、あぁいやでも今日は学校が終わったら友だちの家でチョコを作るとか言っていたから、だとしたらやっぱりみょうじさんが俺の家に来るなんて可笑しい、何故だ、どうして


「幸村くん、聞いてる?」
「あっ!え、えっと、…今日?」
「うん、そう、幸村くんのお家」


やっぱり聞き間違いなんかじゃなくて、みょうじさんの可愛らしい唇から幸村くんのお家と確かに放たれた、けど、何故、分からない、どうしていきなり

みょうじさんとは高校に入って初めて同じクラスになったけど二年からは別のクラスになったから朝会ったら挨拶する程度なのに


「じゃあまた後でね」


ニコニコと手を振って玄関を後にしたみょうじさんの背中を見つめてみたけどやっぱり分からない、なんでなんだ


***

「可愛いよな、みょうじ」
「そりゃそうだよ俺が好きになった子だ、可愛いに決まってる」


昼休み、朝の事を誰かに言いたくてその辺に居た丸井を捕まえて話してみたけど俺が聞きたいのはそういう事じゃなくて、確かにみょうじさんは可愛い、けど問題は今それじゃないんだよ


「まぁ放課後になってみりゃ分かるだろぃ」
「まぁ、うん、そうなんだけど」
「だって家に誰かしら居るんだろ?」
「……いや、今日は夜まで俺一人だ」


そう、問題はそこだ

自分の家に、恐らく俺の部屋に招く事になるけど、そんな所に好きな女の子が居てみろ、どうだろう

俺だって、健全な高校生男子、なんだよ


「無理に決まってる」


悶々とあんな事やこんな事を考えているとあっという間に放課後がやって来た

今日は施設点検の為に部活は休み、このまま帰宅、するんだ、ん?みょうじさんはいつ来るんだろう


「あの、幸村くん」
「っ、みょうじ、さん、今日本当に」
「うん、一旦家帰ったらすぐ行くね」


だそうです、さぁ、どうする、俺

心の準備が、と言うか、みょうじさん一体何しに我が家へ?

そんな疑問を抱えたまま荷物をまとめて教室を後にした

廊下で仁王がニヤニヤと手を振っているからきっと丸井から聞いたんだろうな、覚えてろよ


***

「ちゃんとご挨拶するんだよ」
「はーい!」


帰宅すると妹が何やら大荷物を抱えていたから聞いてみると友だちの家に泊まるんだとかで、更にテーブルの上には今日は帰らないと両親からの置き手紙

なんて事だ、完全に俺一人じゃないか


「あれ、みょうじさん」
「幸村くん、ごめんね、お待たせ」
「やあ、いらっしゃい」


妹を見送ると丁度入れ替わりでみょうじさんがやって来た

その手には今朝とは違う色の紙袋を携えていた

あのラッピングされた箱はしつこくねだった赤也の分だったようでなんだか申し訳ない


「ごめんね突然、びっくりしたでしょ」
「うん、本当に驚いたよ、俺に用事だったのかな?」
「えと、うん、学校じゃ、出来ないから」


ホットココアの入ったカップを両手で持つみょうじさんは本当に可愛くて、こんなに近くに好きな人が居るなんて、しかも、俺の部屋、何か言いたげにチラリとこちらを見るみょうじさんと目が合った

学校じゃ出来ない事、って、何だ、なんでそんな言い方するんだ、そんな事言われたら期待してしまうじゃないか


「学校じゃ、出来ないって」
「あのね、えーと、まずはこれ!手作りだからあんまり美味しくないけど」
「……ありがとう、ふふ、嬉しいな」


必死に冷静を装っているけど恐らくチョコが入っているであろう箱を俺に差し出すみょうじさんの指が触れたのも、少しだけ頬が赤いみょうじさんがこんなに近くにいるのも、心臓に悪い、今すぐにでも抱きしめてキスをして、あわよくばその先まで


「幸村くんあのね、プレゼント、もう一つあるの」
「……え?」


言うなり立ち上がったみょうじさんは突然ブレザーを脱ぎ、ネクタイを外し、いやいやちょっと待て一体何を!?


「ちょっ、みょうじさんどうして」
「もう一つのプレゼント、受け取ってくれる…
?」
「プレゼントって、まさか」
「うん、プレゼントは、私」


思わず立ち上がってはみたものの行き場をなくした手をあたふたと彷徨わせる事しか出来ないで居る俺を他所にみょうじさんはとうとうスカートに手を掛けた


「みょうじさん…!」




「っていう夢を見たんだ」
「幸村くん疲れてんの?」
「妄想大爆発じゃ」


スカートを脱ぎ捨てたみょうじさんをベッドに押し倒した所で目が覚めて、布団の中でおこった生理現象にため息をついた


君が好きだ!


(おはよう幸村くん)
(っ、お、おはようみょうじさん)
(ねぇ、放課後、ちょっと良いかな)
(………え?)


.

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