tennis
□マスカット味の放課後
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「渡邊ー」
放課後、テニスコートへ向かおうとする俺の背中に投げられた無気力な声に思わず溜め息が出た
「………お前な、先生呼び捨てにする奴がおるかっちゅうねん」
「ねぇ、今日テニス部何時まで?」
「人の話聞いとんのか」
みょうじの目的は言わずとも分かっとる、テニス部部長、アイツ何人女子生徒引っ掛けたら気ぃ済むんやろか
「みょうじ帰宅部やろ、そんなん待ってないでとっとと家帰って教科書の一ページでも頭に入れたらどうなん」
「だってぇ、勉強なんか将来役に立たなくない?」
「今勉強せぇへんで後で後悔すんの自分やからな」
「うわ先生みたいな事言ってる」
ホンマに舐めとるやろこの小娘、先生みたいて何やねん先生やっちゅうねん
何度言っても直らない明るい髪色、パンツ見えるんちゃうかと思うくらいに短いスカート、会う度に口に咥えてるのは棒付きキャンディ
それなりに勉強は出来るしそれ以外に目立った事は無いから他の先生も特に何も言ってはいないが、その見た目からか男子生徒に絡まれているのをよく見かける
「因みに今日は部活終わったらレギュラーミーティングやから終わるん遅いで」
「えー、じゃあ待ってようかな」
「いや遅なる言うとるやろ、暗くなる前に帰れ」
「……じゃあさ、待ってるから渡邊が家まで送ってってよ」
何言うとんねんコイツ、何が悲しくてJK家まで送らなあかんねんどうせなら美人先生の送り狼になりたいわ
ニコニコと俺のジャケットの裾を掴んでいるみょうじ、笑っとれば可愛ええねんけどなぁ、俺が高校生やったら口説いとったけどなぁ
「そういやみょうじ、クッキー作るん上手なんやな」
「へ?クッキー?私渡邊にクッキーなんかあげてなくない?」
「調理実習で作ったやつ白石にあげたやろ、あれ一枚もろたんやけど、あんな美味いもん貰えるなんて白石贅沢もんやな」
「…………え、待って、渡邊あれ食べたの?」
え、なんやその反応、食べたらあかんかったんかな、え、もしかして毒でも入っとったとか?え、怖、最近のJKこっわ
「お、おおお、おい、流石に毒入れんのはあかんやろ」
「毒なんか入ってねぇよ!」
「そ、そんならええわ」
「えぇ、まじか、えぇ…」
そんなに俺がクッキー食べたん悪かったんやろか、たった一枚くらいええやんか減るもんやないし、いや一枚減っとるか
あー、とかうー、とか言いながら項垂れるみょうじはちらりとこちらを伺うように目線を上げた
「ねぇ、クッキー、本当に美味しかった?」
「おん、堪忍な、折角白石にあげたもんやったんに」
「あ、いや、いいの!全然!」
なんや急に、挙動不審なんやけど、いやええなぁ、青春やわ
俺にも青春時代なんてもんもあったはずなんやけどどこに忘れてきてもうたんやろ、はぁ
「なぁ、ホンマに部活終わんの待っとんねやったら白石に送らせよか、家同じ方向やろ」
「いやそれなら良い、もう帰る」
「え、でもお前白石の事」
「渡邊って鈍感だね」
なんやねんいきなり人のことdisりよって、折角オジサンが気ぃ利かせて二人きりにしてやろかと思たんに
は、もしかして本命は白石じゃない…?忍足か?それとも一氏?うーわ最近のJK分からんわ
「まぁ帰るんやったら気ぃつけてな、飴ちゃん咥えたまんま歩くと危ないで」
「……渡邊ってさ、彼女作る予定ある?」
「は?喧嘩売っとんのか彼女の一人や二人くらいすぐ作ったるっちゅうねん」
「え、じゃあ良い人いるの?」
そんなん聞いてどないすんねん、邪魔しようとでも言うんか
と言うか、みょうじ顔真っ赤やけど、なんかめっちゃ睨んできとる、っちゅーか、え、その質問まさか、いや、いやいやそんな、仮にそうだとしても一応みょうじは生徒やし、俺も一応先生やし、まさかそんな
「なぁみょうじお前まさか」
「あっ、じゃ、じゃあね!バイバイ!」
「いだっ、おま、顔に飴投げるやつがあるか!気ぃつけて帰りや!」
なんやねんホンマに
カバンからいつもの棒付きキャンディを取り出して俺の顔面目掛けて投げ付けたみょうじは逃げるように廊下を走り抜けていった、相変わらずパンツ見えそうやわあのスカート
いや廊下は走るなってこの前も、いや今はそれ所やないわ、あんな反応されたら誰だって期待するやろ、期待したらあかんけど
……学校辞める訳にもいかんしなぁ、来年まで気ぃ変わらんとええけど
マスカット味の放課後
(オサムちゃんこれみょうじから)
(ん?なんや、クッキー?)
(毒入りやから味わって食え言うとったで)
(あー…、なぁノスケ、JKって何が好きなん)
(え、援交は良くないやろ)
(ドタマかち割んぞ)
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