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□唐揚げ泥棒とプチトマト
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「なまえ、丸井先輩はやめとけ」
「………切原顔にお弁当付いてるよ」


突然何を言い出すんだこの食いしん坊は、おい待てそれは私の唐揚げだぞ手を出すんじゃない


「何、いきなり」
「なまえこの前丸井先輩と一緒に帰ってたじゃん、なんで」
「あれは、まぁ、色々あんだよ」
「なんだよ色々って」


私の弁当に入っている唐揚げを盗み食いしようとする手を引っぱたいてやると何すんだよとか言われたけどそれはこっちのセリフだ、唐揚げはやらん

しかし切原に見られてたなんて、ちょっと厄介だな


「で、何か困る事あんの?」
「えっ、いや、別に、無いっちゃ無い、けど、有るっちゃ有るって言うか、まぁ」
「なんだよ、ハッキリ言えよ」


なんだなんだ、コイツが昼休みに私の所に来るのなんて弁当横取りするかノート写すかしか無いのにどうしたと言うのだ

明らかに焦ったように目線をあちこちに彷徨わせつつしっかり私の弁当を狙ってる切原が朝練の後早弁してたの私知ってるんだからな、あとさっき購買で死ぬほどパン買ってただろ


「丸井先輩はやめといたほうがいいぞ」
「それさっきも聞いたけどどうゆう事」
「あの人好きな人居るって言ってた」
「知ってるけど」
「は!?何だよそれ!」


何だよはこっちのセリフだってば

あ、もしかして切原、私が丸井先輩の事好きだと思ってるのかな、うわ面白いからそういう事にしとこうかな

そもそも好きな人って言うか他校に付き合ってる彼女居るのも知ってるんだけど切原に言うと後々面倒臭そうだから黙ってよ


「切原ってほんとテニス馬鹿だよね」
「あ?なんだよ意味わかんねぇ」
「口開けて」
「は、えっ、あー」


プチトマトをよく喋る口に放り込んでやるとモグモグしながら私にガンを飛ばしてきた、小動物みたい

まさか見られてたとは思わなかったけどまぁ、うん、切原バカだからこのまま都合良く騙されてくれてる事だろう、これ程までに彼の少ない脳みそに感謝した事があっただろうか


「なんだぁ、じゃあなまえ、丸井先輩の事好きな訳じゃねぇんだ」
「なんだか残念そうだね」
「別にそんなんじゃねぇし」
「じゃあどんなんだよ」


なんだろう、切原さっきからちょっとそわそわしてる気がする、もしかしてまだ弁当狙ってんの?食いしん坊が過ぎないかい?申し訳ないけどもう私の胃袋に収まる分しかねぇからな?


「私の好きな人気になる?」
「は、は!?な、なんでだよ!」
「いや、そうなのかなって思ったんだけど、違うならいいや」
「誰も気にならねぇなんて言ってねぇだろ!」
「気になるのかよ」


意味わかんねぇ!なんだよそれ!気にしてどうすんだよ!て言うかなんでキレ気味なんだよ!

いや本当に見てて飽きないわ、切原って奴は


「教えてあげようか」
「ま、まぁ、なまえがどうしても言いたいってんなら聞いてやるよ」
「なんでそんな上から目線なんだよ」
「ほら、早く言えよ」
「……やっぱやーめた」
「は!?」


いや面白い、言ってもいいんだけどコイツ調子乗りそうなんだもんなぁ、どうしようかなぁ


「あ、てか私委員会の仕事あるんだった」
「いやちょっ、おい」
「また後でね、次の授業英語だけど宿題やってきた?」
「あ!?宿題なんかあったの!?やってねぇ!」


だと思った、しょうがないから後でプリント見せてやろう、泣かれると悪いし

食べ終わったお弁当を鞄に仕舞って、美化委員の仕事をするべく教室を出ようとする私の後ろを小鳥のようにピーピー喚きながら着いてくる切原にくるりと向き直ってこう言ってやると膝から崩れ落ちた


「私の好きな人、人様の唐揚げ盗もうとする奴だよ」


唐揚げ泥棒とプチトマト


(な、なぁ)
(ん?なぁに?赤也くん)
(うっ、あの、宿題、見せてください)
(おもしれー)


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