散歩ついでに世界の果てまで

□休日
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「ねぇ待ってちょっと早い」
「え、やだ次」
「待って待ってここ、ここ見せてよ」
「精市くんが見てどうするの、履くの?」
「いや名前さん似合うと思って」


ソファに並んでハーブティーを飲みながら名前さんが読んでるファッション雑誌を横から邪魔をするのが最近自分の中でブーム

窓の外は暑いくらいの日差しで、買い物に行こうかという提案は即座に却下された

今日はのんびりする日なんだと何故か胸を張って言われたけど、名前さんは暑いのが苦手だからまぁ良いか


「えー、私こっちのほうが好き」
「うんそれも可愛い、似合いそう」
「でもこんなヒール高いの最近履いてないなぁ」


言われてみれば最近名前さんは仕事の時も出かける時も、スニーカーやヒールの無い靴を履いているし、玄関に置かれていたハイヒールも今はクローゼットに仕舞われている

雑誌を見つめる横顔は少し寂しそうだ


「名前さん、何で履かなくなったの、あの赤いやつとか似合ってたのに」
「んー、履いても良いんだけど、疲れちゃうんだよね」
「え、なんだそういう事」
「あのねぇ、私精市くんみたいに若くないから、って言わせないでよ」


笑ってはいるけどきっと本気で気にしてるな、この人

でも以前二人で出掛けた時店員さんに「可愛い妹さんですね」と言われたくらいには名前さんは若く見えるのに


「ね、名前さん、今度あれ履いて出掛けようよ」
「…あの赤いの?もう履けないよ」
「名前さん自分が思ってるより充分若いしどこから見ても可愛いから大丈夫」
「またそういう事…」
「こんなに可愛い彼女が居るって見せびらかしたい」
「ふふっ、分かった、分かったから離して」


雑誌を奪い取って抱きしめると腕の中から逃れようともぞもぞする名前さんのおでこにチュッとキスを落とすと大人しくなった

自分のほうが歳下だけど、たまに見せるこの無邪気な笑顔が本当に愛おしいなんて、本人に言ったらまた怒られるんだろうな



(ねぇ、精市くん)
(ん?)
(私があの靴履いたら精市くん中学の時のジャージ着てよ)
(え、あの黄色いジャージ?)
(ダメ?)
(……検討します)

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