散歩ついでに世界の果てまで

□出会い
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「いらっしゃいませ」


学校の帰り道にある小さなカフェ

外からはちょうどキッチンの所だけが見えるようになっている

いつもはみんなと一緒に帰るから中に入るのはこれが初めて

店内はカウンター席が少しと、テーブル席

おしゃれな間接照明がついていて外から見るより広々していた


「いらっしゃいませ、ご注文決まりましたらお呼びください」


やっぱり、初めて見る人だ
子供の頃からあるカフェだけど、いつも男の人が二人だったはずだ

だけど今水とおしぼりを持ってきたのは長い髪を大きな黒いリボンで纏めた綺麗な人

初めて見る、けど、どこかで会ったような気がする

すいません、と声を掛けるとさっきの人がパタパタと可愛らしい笑顔で注文をとりにきた


「はい、お伺いします」
「オススメのハーブティー、ありますか」
「んー、カモミールティーですね、お兄さん部活帰りでしょう?リラックス効果があるのでいかがですか」
「え、あぁラケットバッグ、じゃあそれください」


かしこまりました、とキッチンに消えていった後ろ姿を見るとやっぱりどこかで見た事あるような気がして、誰だったかなぁ

そんな事をぼんやり考えているとカウンターの向こうの彼女と目が合って、さっきと同じ、可愛らしい笑顔で微笑まれドキっとした


「お待たせしました、カモミールティーです」
「…あの、どこかで会ったこと、ありませんか」
「え?んー、ごめんなさい、君立海の生徒さんでしょ」
「あ、はい、そうですけど」
「ちょうどキッチンから外が見えるんだけど、お兄さんが帰る所、ここから何度か見てたんです」
「え、あの、お姉さんはこの辺の人じゃないん、ですか?」
「そう、最近引っ越してきたんです、だから会ったこと無いと思うんですけど…」


俺の勘違いだったかな、だけど確かに見た事がある、記憶の片隅に残っているのは誰だったのか


「あ、でも前に用事があってこの辺来たことあったかも」
「それ、どれくらい前ですか」
「高校卒業したくらいだったかな、朝早くに用事があって、駅に学生さんがいっぱい居たの覚えてます」
「………やっぱり、そうだ、思い出した」


あの時見た、あの人だ

初めて朝寝坊なんかした良く晴れた日、駅で見た、目が合って、そらせなかった、あの人

きっと一目惚れだったと思う

また会えたら良いなと思って何度かわざと遅めに家を出たりした事もあったけど、それっきり、二度と見付ける事は出来なくて、だけどずっと頭の片隅に、花のような彼女の存在があった


「やっと、会えた」
「あ、待って、もしかして、その時も君ラケットバッグ持ってて、中学生くらいじゃなかった、かな」
「…目が合ったの、覚えてます、か?」
「あの時ね、あんまりまっすぐ、綺麗な目でこっち見てたから、なかなか目がそらせなかったの」


そうだ、あの時の女の人も俺をずっと見ていたけど人混みに紛れて居なくなってしまったんだ


「君だったんだね、あれからずっと忘れられなくて、だからこの街に引っ越してきたの、運命だ、って思ったから」
「あの、また来ても良いですか」
「是非、いつでも待ってますから」



夢を見た、あの時の、名前さんに二度目の恋をした日の事を


(精市くん、起きて、お夕飯の買い物行こう)
(…ねぇ名前さん)
(ん?なぁに?)
(好きだよ、ずっと)
(ふふ、何よ突然、私も好きだよ、精市くん)

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