散歩ついでに世界の果てまで

□我儘
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「精市くんちょっと離れて」
「離したら名前さんどこ行くの」
「だから買い物行くんだってば」


寒い、とっても寒い

いつの間にか夏が過ぎ去っていて、長袖のシャツでも少し肌寒いくらいの季節

俺の夏はどこへ行ったのか


「名前さん抱いてるとあったかいんだよ」
「あのねぇ、そしたら私何も出来ないでしょ」
「何もしなくて良いから俺の抱き枕になってて」
「飢え死にしても良いのかな」


例え飢え死にしようと名前さんが一緒ならそれでも良い

まぁなんで寒いのかって言ったら未だに半袖着てるからなんだけど

近頃冷え性だという女性が多いが、今俺の腕に抱かれているこの人は冬でも靴下を履きたがらないし、布団の中では湯たんぽ代わりになる程に体温が高い


「そんなに寒いなら上着着れば良いでしょ」
「パーカー今干してる」
「クローゼットにまだ有るでしょ」
「出すの面倒くさい」
「もー、精市くん子どもみたい」


なんだかんだ文句を言いながら大人しく俺の脚の上に抱かれている湯たんぽは本当に抱き心地が最高で、オーダーメイドのクッションかと思う程

そういえば初めて名前さんを抱き締めた時はあまりのフィット感と良い香りに驚いたな、何年前だろう


「ねぇ精市くん」
「ん?」
「もしもの話ね、私がこの世に居なかったら、精市くんは」
「きっと今頃雲の上だろうね」
「……何それ」


また突然面白い事を言う

この人の思考回路は本当に読めないから、こういう質問が投げられるのを密かな楽しみにしている

けど今日の質問はまた唐突だ、名前さんが居ない世界なんて、そんなの考えた事もなかった

中学生まではずっと勝つ事だけを考えてテニスをしてきた、高校に入って少しはテニスを楽しもうとはしてみたものの、やっぱり上手くいかなくて

だけど、あの時、二度目の恋をした時からずっとこの人の事ばかり考えていて、名前さんが居るのが当たり前だった


「名前さんが居ないなら生きてたって仕方が無いし、想像も出来ないな」
「……不思議な事もあるもんだ」
「ん?どういう意味?」
「私もね、精市くんがこの世に居ないなら、生きる意味無いなって、思ったの」


そうだ、俺はこの笑顔を守るために生きている


「名前さん、夕飯の買い物行こうか」
「今日は何が食べたい?」
「ロールキャベツ」
「え、先週も食べたじゃない」
「名前さんの作るのロールキャベツは特別なんだよ」
「ふふ、了解です」


この人が居ない世界に生きていたって仕方が無い、この人無しに、今の俺は成り立たないのだから


(精市くんお魚のほうが好きなんじゃなかった?)
(それとこれとは別の話)
(ふーん、でもなんとなく分かった気がする)
(初めて二人暮らしを始めた日に作ってくれたのが、ロールキャベツだったから)
(えへへ、やっぱりね)


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