散歩ついでに世界の果てまで

□手当て
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いつの間にか夏が過ぎ、気が付けば秋がやってきていて、窓の外に吹く風も冷たくなってきた

洗濯が終わるまで雑誌を読んでいた名前さんが目を離した隙に寝てしまったから、今日は俺が洗濯物を干す番

ちなみに今日の雑誌は月刊プロテニス青学特集号だそうで

薄手の毛布を掛けてやると幸せそうに身じろぐのを見たら起こせるわけもなく


「はぁ、今日はまた随分寒いな」


誰も聞いていないのは分かりつつも思わず声が漏れるほど、これから少しづつ寒くなっていくんだなぁ


「ん、寒い…」
「あ、ごめん名前さん、起こしちゃったね」
「……洗濯物、洗濯物!」


換気のために少しだけ開けていたドアから吹き込んだ冷たい風が眠り姫を起こしてしまったようだ


「大丈夫、今終わった所」
「あー、うー…ごめんね精市くん」


毛布を握りしめて申し訳なさそうな顔をしているけど、こちらこそいつも洗濯やら掃除やらしていただいて感謝してます


「あんまり気持ち良さそうに寝てたからさ」
「この前も朝ごはん作って貰っちゃったのに、なんかごめんね」
「あぁ、あれはだって夜俺があんまり酷くしたから名前さん腰が立たなくなって」
「分かった分かった!ありがとうございました!」


今更恥ずかしがる事も無いだろうに

時々ジュニアだけじゃなく社会人テニスのスクールが夜に入る事もあるから、結局家事の殆どは名前さんに任せてしまっているし、一緒に居るんだからこれ位の事はさせて欲しい、それに


「名前さん手、見せてごらん」
「……やだ」
「こら、良いから出して」
「やー!精市くんのアホー!」
「ほらやっぱり、こんなにボロボロ」


カフェでも家でも、水切れが良いからとお湯で洗い物をするから、この季節名前さんの指先はガチガチ、折角綺麗な手をしているのに


「ちゃんとハンドクリーム塗ってるの?」
「あー塗ってる塗ってる、塗ってます」
「うん塗ってないね」


いい加減その下手くそな嘘やめたら良いのに、まぁ素直じゃないのがこの人の可愛い所なんだけど


「そういう精市くんだって毎日のように水仕事してるから指先割れてるじゃない」
「俺は良いんだよ」
「何それ、ほら手出して」


確かに花屋の仕事は水を触る事が多いから毎年手荒れはするけれど、名前さんは自分の手のほうを心配してくれないかな

ぶつぶつ文句を言いながら俺の手にハンドクリームを塗る名前さんの指は痛々しい程に荒れていて、こんな小さな手で毎日頑張っているんだな、と思うと愛おしくて、大切な存在


「ありがとう、名前さん」
「ふふ、精市くん、王子様みたい」


その小さな手の甲に感謝の気持ちを込めてキスを落とした



(でもまぁ指先割れてると申し訳ないかな)
(ん?何に?)
(何って、だってこの指で名前さんの事気持ちよく痛っ、殴った!)
(ばかー!)


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