散歩ついでに世界の果てまで

□おはよう
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チューリップが咲き誇る花畑の向こうに、こちらに手を振る名前さんを見付けた

近付こうと足を踏み出しても名前さんはどんどん離れていって、待って、名前さん、行かないで


「っ名前さん!?」
「わっ、びっくりした」
「………名前さん」
「ん?おはよう精市くん」


飛び起きた俺の頬を汗が伝い、窓から差し込む朝日がさっきのが夢だったと気付かせた

何だったんだろう今の夢、え、と言うか名前さんもう起きてるの?


「精市くん大丈夫?ね、朝ごはん出来でるよ」
「あ、う、うん」
「冷めちゃうから早く着替えてきてね」


寝室から出ていく名前さんの背中にもう一度うんと返事をしてのそりとベッドから出た

なんだかやけにリアルな夢だったな、いやそれは置いといて、名前さんが俺より早く起きて、しかも朝ごはんを作ってるなんて、え、今日何か用事でもあったかな


「精市くんまだ寝惚けてるの?」
「いや、ねぇ名前さん、この朝ごはん」
「はいスープ、熱いから気を付けてね」
「………」


何だ、何かが変だ、今日は俺が朝ごはん作る番なのに、このスープ美味しいな

目の前でニコニコとパンを頬張る名前さんはどこか嬉しそうで、あと何だかいつもと部屋の雰囲気が違うような、何だ、分からない、目玉焼きの硬さが俺好みのなのも、サラダに入ってるハムが星形なのも、何だろう、花瓶が一つ増えた?


「名前さん、今日何かあるの…?」
「え?なんで?」
「だって、昨日あんなに激しくえっ」
「わー!朝からなんて事言うの!」
「なのに、名前さんが俺より早く起きて朝ごはん作ってるし、なんならいつもより可愛い気がするし」
「……精市くんカレンダー見てみなよ」


なんとも言えない表情の名前さんが差し出した卓上カレンダーを見ると今日は三月五日、何の変哲もないただの平日、ん?三月五日?


「分かった?」
「……俺今日誕生日だ」
「自分の誕生日忘れる人って本当に居るんだ」


いやそれ俺も思った、まさか自分の誕生日を忘れていたなんて


「だから名前さん、朝から嬉しそうなの?」
「そうだよ、だって、今日は精市くんが生まれた日だもん」


自分の誕生日でもないのに本当に嬉しそうな顔をするんだな、この人は

立ち上がった名前さんはちょっと待ってて、と言い残し玄関へと消えた

だけど、どうしてあんな夢見たんだろう、名前さんが遠くに行ってしまうような、消えてしまうような夢


「じゃーん」
「……え、名前さんこれ」
「うん、ダリアの花、精市くん好きでしょ?」
「うん、好き、あと名前さんも好き」
「あー、ありがとうー」


少し呆れた様な顔で渡されたダリアの花束、確か昨日までは無かったはずだけど、いつの間に用意したんだろう


「俺さっき夢を見たんだ、名前さんが居なくなる夢」
「……でも、私はここに居るよ、ちゃんと」


聖母マリアの様な、慈しむような優しい眼差し、そう、名前さんのその顔が好きなんだ、いや全部好きだけど

立ち上がって花束が潰れないように、あと名前さんも潰れないようように抱きしめた

あぁ、あったかい、腕の中にすっぽりと入る丁度いい大きさ、まるで最初から俺の腕に抱かれるのが運命だったかのような


「その夢で名前さん、チューリップの花畑の中に立ってたんだけどさ」
「三途の川じゃないよね」
「違うよ、そのチューリップ、全部紫色だったんだ」
「紫のチューリップ?私もそれ見たかったなぁ」


チューリップは確かに綺麗だったけど追いかけても追いかけても逃げてしまう名前さんを追いかけるなんて悪夢もう二度と見たくないな


「紫色のチューリップの花言葉はね」
「不滅の愛」
「え?」
「精市くんのお花の本見てた時に見つけたの」
「……春になったら見に行こうか、チューリップ畑」


あったかくなったらお弁当を持って出掛けよう、それを楽しみにしていればこの寒さなんて、あっという間に終わるはずだから

後で聞いた話だけど花束をどこに隠していたかというと、昨日の内にこっそりお隣さんに預けていたんだとか

苦労かけました…


(因みに白いダリアの花言葉は、感謝)
(うん、それも本で見た、だから白いダリアにしたんだよ)
(じゃあカスミソウの花言葉)
(え、分かんない、何?)
(幸福、いつもありがとう名前さん)

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