好きな作品のコラボアイスが出てることを知った僕は、財布を握りしめてコンビニへ向かったーーーのが運の尽きだった。
「いいぃぃぃぃやぁぁああああああああ!!!!!!!!」
喉が潰れんばかりの叫び声をあげながら、全力疾走で夜の市街地を走る。
お住まいの皆さん近所迷惑ですよね! ごめんなさい!! でもこっちは死活問題なんです!!!!!
「ニン……ゲン、マ、テ……」
背後から追ってくるのは、尸魂界へ逝きそびれた魂魄の悪霊化・虚。コンビニからの帰り道で偶然この虚に出くわした僕と、霊力ある人間おもろ^^な虚による命をかけた追いかっけっこが始まったのだ。
「無理無理無理、待つわけないじゃん!! 捕まったら頭からぱっくんちょでしょ!!? 骨ごとのど越しバイオレンスなんでしょ!!? 僕知ってるんだから!!」
くっそー! こんなことなら出かけるんじゃなかった!! 夜は幽霊の活動が活発になるってわかってたのに僕のバカ!!
てかアフロのオッサンは!? 虚退治もお仕事でしょうが!!
次会ったら腕ひしぎ十字固めしてやると固く誓いながら、とにかく足を動かす。なるべく見つからないように右へ左へ曲がりながら撒けないかと試みるも、民家と同じくらい背丈のある虚からは、僕の姿は容易に見えるようで、ずっと後を着いてくる。
「クウ……ニンゲ、マテ……」
「お前死んでまで人様に迷惑かけるの良くないぞ!!? 生まれ変わって道徳一から学び直してこい!!!!!!」
ダメだ息が上がって胸が苦しい。足も体も限界だ。でも、もう少し。もう少しすれば……!
「ーー悪ぃ、待たせた」
頭上から聞こえた声と、衝撃音。
次いで、虚の叫ぶ声。
爆風に思わず目を瞑り、次に目を開いた先には、月夜を背中に受けて立つ死神の姿。
「いっ、一護くん!!!!!」
身の丈ある斬魄刀を振りかざし、幼なじみの一護くんが一撃で虚を倒してくれた。
ひゅー! やったぜ!
「助かったぁああああ!! いやもう死ぬかと思った!! 次に会うときは流魂街になるんじゃないかって本気で思ったよ!」
「大袈裟だなぁ。怪我はねぇか?」
「足と肺が死にそうなほど痛いけど大丈夫」
緊張の糸が切れ、安心からどっと疲れが押し寄せる。浅い呼吸を繰り返しながら傍にいくと、一護くんは汗でおでこにへばりついた前髪を軽く梳かしてくれた。
「それにしてもこんな時間に出歩くなんて珍しいな」
「あー、今アニメとコラボした限定アイスが出て、いて…………」
がさり、と袋から取り出したアイスは悲惨なほど形が崩れ、ボタボタと容器から漏れ出している。
「うっっっそやろ…………」
あまりにも酷い現実に、膝から崩れ落ちる。夜とはいえ真夏の気温の中、全力疾走で振り回されたアイスは溶けてしまったのだ。
なにこの仕打ち……僕悪いことした? 命からがら必死に逃げてきたっていうのに……この世には神も仏もいないのかこんちくしょうこんな世界ぶっ壊れちまえ!!!
「あーほら、泣くな。これからコンビニ行こうぜ」
「ずびっ、いち、一護くん……」
「遅れちまった詫びに、俺が買ってやるって」
「かみさまか……!?」
よしよしと頭を撫でてくれる一護くんに、後光が差してるように見える。昔から兄気質がカンストしていたけど、最近特に優しさと慈愛を感じる……ママ? もしかして一護くん僕のママだったりする???
なんて思っていたら、「じゃ、行くか」の声と同時に訪れた浮遊感。
「一護くん?」
「舌噛むから黙ってた方がいいぞー」
「一護くん待って? 一旦落ちつこ? 僕をまず降ろーーーうわぁぁぁあああああっ!!」
クラッチバッグみたいに僕を小脇に抱えた一護くんは、瞬歩で夜の空座町を駆けていった。
真夏のアイス
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